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秋刀魚の味のめるのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.0
結局、人生はひとりぼっちじゃ……

人は産まれるときも死ぬときも一人だから。
いくら血が繋がっていても仲が良くても自分以外は他人だから。

ふと、考えてしまう何気ない台詞があったりするのが小津安二郎作品の好きなところです。
カメラに向かって話すカメラワーク、固定されたカメラワークの味わいもクセになってきた。今作は誰もいなくなった部屋をワンカットずつ撮していく演出が良かった。

小津作品の常連、笠智衆、東野英治郎、杉村春子も揃ってました。

先生をあだ名で呼ぶのはいつの時代も同じだね。東野英治郎に「ひょうたん」はなかなか良いよ(笑)
ここでも寅さんの坪内先生と同じように酔っ払って蘊蓄を垂れてました。

杉村春子さんが先生の娘役。いつも気の強い庶民的なおばちゃん役だけど、今回はちょっと可哀想でした。
お父さんをジッと見つめる目線。呆れ、悲しみ、憎しみ、等々が一気に感じられる演技。さすがでした。

安定の笠智衆。
でも、今回はかなり動揺が見えたような。娘がお嫁に行ったあとのお父さんの淋しい姿を何度も長く撮す。その佇まい、表情、目のインパクトたるや。笠智衆は泣かない男だけど、「あれ?泣いてる?」と思わせるほどでした。

娘のお婿さんも結婚式のシーンもない。
でも、それは父親の笠智衆が主人公だからであり娘がいる日々といない日々の対比を際立たせるためだと思った。無駄のない演出が素晴らしい。

言葉も今とちょっとずつ違っていて面白かった。「こんちは」って挨拶していて時代を感じた。「とんかつ」の"か"が見たことがない字だったり。
でも、今なら「嫁に行く」という言葉選びまでも批判を呼ぶ世の中になっちゃったのかな。

母を亡くした直後の小津監督であり遺作らしい。60歳で亡くなったんですね。
父と娘を描く映画が多いけど、"お母さんがいない"ということでよりお母さんの存在が強く出ている気がしました。小津監督にとっては父と娘と同じくらいお母さんを強く意識していたのかもしれない。

小津監督の作品は"出来る娘"ばかり出てくるから共感はしないけど尊敬する。でも、その裏には母親の代わりに父の世話をするという生活があるわけで。自分は幸せなんだなと思う。

「中井貴一に似てるなぁ…」と何度も思っていたら、中井貴一のお父さんでした。佐田啓二という俳優さんで、37歳で亡くなっていました。
(中井貴一の名付け親は小津安二郎だったんですね。)

サントリーがスポンサーかな。「この店にはサントリーしかないのか」と冗談混じりで呟いてました。

秋刀魚、出てた???
『とんかつの味』の間違いじゃないよね?(笑)
でも、『秋刀魚の味』というタイトルから人生のほろ苦さと哀愁が漂っていて良い。
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