ニューランド

蟻の兵隊のニューランドのレビュー・感想・評価

蟻の兵隊(2005年製作の映画)
3.7
十数年前、文芸坐で観た『延安の娘』は特に優れた作品とは思えなかったも、より話題にのぼり、TVにも、の本作は以前から気にはかかっていた。とにかく、異常にカメラの語りのボルテージの高い作品である。元・中国残留兵ー現・国相手の軍人恩給支給裁判の原告団(撮影当時皆80代)の最年少で行動的なひとりを中心に手持ちのフォロー(+上下仰俯瞰め+引く・寄る+廻るも美的で力強く)移動のカメラは常に顔等の接写・時に顔のパーツまで大接写、カッティングも終盤は細かめ・叩き込みもし、音楽も多目・大きめに煽る。原一男作品にスタンスは近くも、ユーモア・曖昧味は少なく描写・スタンスはストレートすぎ、ふくらみ・ふところの広さや多面性示唆には欠ける。しかし、同種の劇映画(40数年~30年前に観た、直線的にすぎる)『軍旗はためく下に』『フルメタル・ジャケット』よりは、はるかに興味深い。
終戦時、支那派遣軍の武装解除・帰国の方針に反し、第1軍司令官は、秘かに国民党の司令官と密約し、数千人を山西省に対共産軍の闘いの為に命令し残留させた(日本軍の誰彼ない残虐な殺戮・暴行へ進む)。皇国復活拠点として、そして戦犯たる自分を国民党上層と繋がる事で、日本に先に無事戻す工作の為に。その証拠が、中国への旅で明らかにされてくも、国は自らの受諾ポツダム宣言違反を認めず、原告らを勝手な志願残留とみなす事を変えない 。
そうして、殺人マシーン化の教育を受け実践し、罪を背負い生き続けたこの人間は、靖国も否定し、定年後を頑固に反軍・その実態の解明に費やし活動するも、妻にも戦争の事は一切話せない。本作の監督の協力・促しでより、現地と生存者・証拠書類に当たり行動を深めてゆく。彼が終戦時初年兵で、全体・客観わからず、生き残り者の中では若いので、とあらゆる関係事実解明に向かい闘ってゆく姿は、ポイント絞りの劇映画に馴染んでる我々としては、それはやや正当に堕し間口が広くなりすぎてる気もするが、本人が信念に凝り固まらず、一方では外界に対し気負いなくすがすがしいのには救われる。
自分が処刑した人間(初の殺人)が、謂れない農民ではなく、職場放棄の傭い警備員と判り、生き残りに対して突如日本兵に戻って叱責・なじり、罪も無意識軽減化せんとするシーン(自体は素晴らしいも)の不穏音楽過剰は首かしげるも、残留邦人の万全帰国を果せなかった支那派遣軍の参謀の意識もない筈が激しく悔恨で嗚咽・呻くシーン、とりわけ日本兵・付いてた中国人にも輪姦・殴打され、家族・その後の人生にも害及んだ当時16才の女が、(別件だが罪拭えぬ)彼に、好きでしたことでは・今のあなたは悪い人には見えない・奥さんにも話すべき、とみせる赦しの表情には胸打たれる(それ以外は概して、解明に協力的で怒りもしない当時の関係・生き残り中国人は不気味でもあるが、こちらの狭量のせいもあるのか)。
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