Arata

黄色いリボンのArataのレビュー・感想・評価

黄色いリボン(1949年製作の映画)
3.7
新年からジャズミュージシャンのインタビュー記事や逸話などを元に書かれた本、ジェフ・ダイヤー氏著、村上春樹さん翻訳の「but beautiful/バット・ビューティフル(新潮社)」を、知人の勧めで読み始めていたところ、今作をとあるミュージシャンが劇場で観るという件りがあり鑑賞。


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そのミュージシャンとは、レスター・ヤング。
伝説的なジャズ・シンガー、「レディー(身分の高い女性)」こと「ビリー・ホリデー」が、「プレジデント(大統領)」を省略した呼び名の、「プレズ」と呼んだサックスプレイヤー。


作中のプレズは、午後を損いたくない為に、昼間のシーンばかりの西部劇を好んで観ていて、観ていない西部劇は無いと言う程らしい。
しかしプレズは、昼間に映画館へ行く。
現代の日本人の感覚で言えば、午後を損ないたくないのなら、映画館と言う暗い建物の中には行かず、外を歩けば良い様なものをと思ってしまうが、時代や人種、更にはピークを超え、バンドを解雇された彼の置かれた現状などから、現実の屋外へは向かう事が難しいのかなと感じた。

更にプレズは、ストーリーを追うでも無く、誰が保安官で誰が悪党かもよく分からず、西部劇の醍醐味とも言える戦闘シーンを茶番とすら捉えている。
プレズは、『漂白された風景と、駅馬車が巻き上げた土埃がくすんだ青空に吸い込まれていく様をただ眺めていた』とある。
(敬称略)

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私は結局いつものクセで、ついあれこれ考えながら観てしまった。




【あらすじ】
砦を守る騎兵隊の老兵ネイサン・ブリトルス大尉は、あと数日で退役し老後を暮らす予定。

退役を翌日に控えたある日、ネイティブ・アメリカンの部族が複数集まり、騎兵隊との大規模な戦争を画策していると言う危険な状況にも関わらず、無謀な条件の命令を下され、司令官に意見書を提出するも作戦は強行され、ネイサンの予見通り失敗に終わる。

あと数時間で退役となるのだが、作戦の失敗により現場に残した仲間の事を案じ、残りの数時間をフル活用し現場へ向かう。。


ネイサンは仲間を救う事が出来るのか、騎兵隊の運命は、などと言った単純なストーリーを、広大な荒野を部隊に騎兵隊の行進、勇ましい乗馬シーン満載で描き、若い騎兵隊の私生活を含めて成長を見守り、上官と部下を超えた友情の様なものを壮大なスケールで描いた西部劇。


【感想など】
・タイトル
黄色いリボンには、「愛の証」「帰還を願う」などの意味がある。
※意味に関しては、劇中でも語られる。
同名タイトルの楽曲も、劇中で演奏もされる。


・キャスト
当時40代のジョン・ウェイン氏が、老兵を演じているが、もっと年齢が上に見えるくらいにもの凄く貫禄がある。


・制作
監督はジョン・フォード氏で、「アパッチ砦」、「リオ・グランデの砦」、それに今作を含む3作品を、騎兵隊3部作と呼ぶ。


・戦闘シーン
大部分のシーンがロケで行われており、とても迫力のある映像。

騎兵隊を扱った作品なので、戦いで生命を落とす者もいるが、退役当日の最後の大作戦では、相手側も含め、誰も死なないと言う事が、映画としてはとても良かった。
だがしかし、同時にあくまでも綺麗事なのかなとも思えた。


【飲み物】
アイリッシュウイスキー
クインキャノン曹長が、砦内のバーでドタバタ劇を繰り広げる際に飲んでいたり、行軍の途中で薬と称し「良薬口に苦し」などとふざけながら飲んでいる。

ジョン・フォード監督がアイルランド系移民の子だからなのか、名前などから察するに騎兵隊にアイルランド系の人たちが多かったからなのか、歴史的に見てアイルランドのウイスキーの勢力が当時のアメリカにおいて強かったからなのか、などの理由が考えられる。

いずれにせよ、美味しそうに飲んでいる様子が伺えて、戦士の束の間の休息や、ドタバタコメディのアイテムとしての意味合いなどを強く感じる、とても効果的な登場で、ついアイルランドのウイスキーを口にしたくなる。


個人的に思い入れのあるアイリッシュウイスキーは、アイルランド特有の製法である未発芽大麦を使用するピュアポットスチルウイスキー『レッドブレスト』と言う銘柄で、オイリーでスパイシー、シェリー樽熟成原酒の熟したフルーツ香が楽しめる。
特別に入手したレッドブレストのカフスもお気に入りで、普段使いしている。


ちなみに同製法で作られる別の銘柄で、イエロースポットと言う今作の黄色に絡めたウイスキーもあり、こちらも同様の製法で作られ、フレッシュなフルーツの香りも加わった大変に美味しい佳酒である。


【総括】
ただ眺めていても良い時間を過ごせそうな程、壮大なスケールの風景が堪能出来る。

楽曲も、西部劇然とした勇ましさと哀愁とを感じる。

極個人的に、ザ・ブルーハーツの「青空」と言う曲を思い出した。
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