このレビューはネタバレを含みます
これは拾い物。素晴らしい。
映画運動論に忠実な映画である。また、クレイジーともとれる実直さで周囲を変えていく男が主人公というのも好み。
冒頭からあらゆる地形を自転車で疾走する郵便局員。毎日決まった経路を時間も正確にきっちりこなすことが町の人々の暮らしと共に示される。これがクライマックスの市民救助でしっかり活きる。危機を察する理由が、夕方に取り込めていない洗濯物を見つけたからというのが全く説明臭くなく、ハッとさせてくれる。しかもこの事件から親子の和解、郵便局での多少バカにされている立場の逆転も同時に進める話運びが実に見事である。脇役すら活かされるあのチームプレイ。
陰ではこんないい人だった、というのではなく、思ってた以上に生粋の郵便バカであることで一目置かれるというのがさらに爽快感を生む。あと迷惑かけて戻って来た後、謝ってる途中でルーティーンの時間になって、手紙に判子を押し出すシーンも無茶苦茶面白い。
また、亡き母親を思い出す回想シーンではカメラパンで時制を変えるテクニックが用いられるのだが、これが過去→現在。現在→過去、現在→未来はよく見るけど、これは初めてな気がする。しかも現在で回想してる人がチェンジするという高等テクニック。
あと、オープニングの手紙のやり取りが思わぬオチになるのも、あくまでオマケ程度なんだが、映像の叙述トリックとしては本当によく出来ている。手紙の内容も面白いけど、その後の手紙のやり取りも簡潔で粋。
ラストはまだ幼い息子の手紙エピソードを用いて娘と父親の和解、娘の決意を簡潔に伝えて泣けるのだが、墓参りで母親の名前を親子共に図らずも撫でてしまう、というのが本当に素晴らしい。こういう運動こそが映画のオチというものであろう。
撮影も照明はそうでもないけど、人物の並べ方が良かったり、人の出し入れに奥行きを巧く使ってたりと抜かりない。ドローンがない時代に空撮も要所要所で使ってて贅沢感が味わえる。
長嶋一茂も巧くはないが、凄く良い。愚直さと身体力が活かされた絶妙なキャスティング。もっと映画に出て欲しいと思わされた。
監督はテレビ中心の方みたいだが、ベテランみたいで相当映画好きな方なんではなかろうか?これがヒットしなくて映画はほとんど撮ってないみたいだが、こんな才能を放っておくなんて残念な話だな。