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おもちゃのsiのネタバレレビュー・内容・結末

おもちゃ(1999年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

大傑作!

売春防止法が施行された頃の芸妓の物語。一人前の芸妓になるため、大金と引き換えに資産家に処女を捧げる水揚げという儀式があったということは初めて知ったが、この醜悪極まりない儀式に対する芸妓の並々ならぬ決意を目の当たりし、芸妓に恥ずべきことなど何一つないと襟を正すばかりであった。最低な環境で必死で生きることを選択した人たちのことを今の価値観で否定することなど出来ない。

主人公、時子は芸妓数人を抱える女将の家でひたすら台所仕事と雑用に精を出す少女。貧乏な家を助けるために芸妓を目指している。

身体は売るけど安くは売らないという芸妓の矜持は、本気で惚れたら揺らぐし、弟子のためにも揺らぐ。最低なパトロン親子を弟子のために身限り、金に困った女将が時子のためにプライドを捨ててまで身体を売りに行くシーンは本当にグッと来る。台詞に頼らず女将の逡巡がちゃんと描かれている。そんなこんなで様々な芸妓像が展開されているので、いよいよ時子を送り出す宴会の盛り上がりが本当に泣ける。世話係のお婆さんが涙ぐんで優しく見守るのも素晴らしい。

名前が分からないのだが、京都家屋の特徴でもあるトンネル状のくぐり屋根の使い方が素晴らしい。女将の家の玄関のすぐ前にそのくぐり屋根があり、カメラは終盤まで常にトンネル越しで玄関側の時子を捉える。ホースでの水撒き、女将がパトロンに塩を撒く等の所作で内側を意識させているから、水揚げに行く時、つまり着物を纏い、白粉を塗った時に初めてそのトンネルをくぐり抜け外側へと颯爽と出る瞬間にグッと来る訳である。直前の師匠との会話で、一点の曇りも無く自らの意志で水揚げを肯定する件の後だから尚更胸を打つ。

その後の水揚げ直前の旅館の時子の凛々しさたるや。直接抱かれるシーンは描かず、脱いで素っ裸で横たわり不敵に微笑んで終わりなのが無茶苦茶グッと来る。初恋の人に一滴の涙は流すものの笑顔で無言の別れを告げ、それでも私はこれを選択した。そこに迷いは無いという覚悟の微笑みであった。

最初と最後の特撮が浮いているけど、そんなことは瑣末なこと。いまいちな時もあるけど、深作欣二がホームランを放った時の素晴らしさは圧倒だな。
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