都部

映画ドラえもん のび太の人魚大海戦の都部のレビュー・感想・評価

2.1
わさび版ドラえもん映画の中でもたびたび酷評される本作ではあるが、地上に架空の海を作り出すロマンスある状況設定と人魚族の姫君との思わぬ交流そしてそれが齎す非日常感など、作品を構成する要素を取り上げるだけならさして不足はない。とはいえトントン拍子に物語の障害が処理されていく脚本の浅薄さやゲストキャラ陣の見せびらかすような個性の発露に苛立ちを感じるのはたしかに事実で、物語を解体すればするほどに難点が見られるのは事実である。

物語導入の架空水面シミュレーター・ポンプによる地上での海中冒険は素直に胸踊るもので、魚をぶちまけて無関係のいつもの面々がそれを目撃する──日常の中で魚類が回遊する絵面からは、子供向けSFアニメとしてのセンス・オブ・ワンダーを感じさせる。その中で本物の人魚が紛れ込むという設定はロボット王国のそれを思い出させるし、姫:ソフィアのさっぱりとした性格は見ていて気持ちが良い。

なので物語の立ち上がりは良好であるのだが、ティアラの取り替えによるしずかの略取から徐々に本作の問題が表面化していく。

のび太達が訪れる人魚族の王国は画としては綺麗だが、その国家特有の文化や生活形式が語られない為にそこに独自性がなく、ではどこでそれを発揮しているかといえば魚を模したサブキャラクター達の挙動だ。この一々 リアクションを挟んでくる感じがあざとく感じられる部分はあって、表面的な設定と感じさせる描写が物語の没入感を損なっている。
また同様に人魚伝説の解法も非常に淡々としており、これに関与する布石や伏線を早々に切り捨て、物語の決着の為にあっさりと処理したのは肩透かしに近い所感があった。物語の中心となる謎に魅力が感じられないのは、やはり大きいように思う。

伝説の剣を狙うアクア星人も打倒されるべき敵役以上の味はなく、中盤のそれらしい悪役ムーヴはまだ良いのだが、終盤の愚鈍さを感じさせる挙動には文句があり、ラストバトルの振り回されてなすがままに倒される下りは……もっとやり方があるだろ! あとその前に、伝説の剣がそこまでの経緯からさらっと盗られるのも変じゃないだろうか。

個人的に婉曲表現を伴わない『大好き』であるとか『愛してる』といった言葉を使うことでのストレートな好意の表明は好きなのだけれど、それはそれまでの経緯が強固であるからこそ初めて成立する直球の感情表現であるからで、それまでの描写の積み重ねを感じさせない それらしい場面での押し売りのような愛の応酬は見ていて冷める。一貫性を感じさせない会話の流れだなと思ったし、場に応じた台詞でもないと思える。
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