似太郎

黒い雨の似太郎のレビュー・感想・評価

黒い雨(1989年製作の映画)
4.6
反戦映画なのにただ虚無的な日常がダラダラと綴られていくだけで、一切盛り上がりがない。むしろ戦時下に於ける狂った人間の側面に焦点を当てているのかな? 全編に渡りドキュメンタリー・タッチで凄かった。🤯

この異常極まりない状況=戦時下を背景に「どうすることもできない」今村的な不条理ユーモアをビンビン!と感じる。また武満徹による現代音楽調のスコアも不気味で効果的。井伏鱒二の原作小説は未読。広島の原爆投下シーンはある意味、この世の「浄化」を意味していた。

本作、声高に「戦争は良くない!」と主張する反戦映画ではなく、むしろ「人間なんて所詮こんなだろう」といったある種の諦念に近いものが根底にある気がする。それでもどうか生きていてほしいのである。…と願う主演の北村和夫の、律儀な姿勢には泣かせられる。

思えば『うなぎ』『カンゾー先生』もどちらかと言えば難解な不条理劇の要素が強かったような。

全編、画面に余白が多くて見易い。トリュフォーやリヴェットといったヌーヴェルヴァーグの作家達が今村昌平の画作りを高く評価したのも頷ける。なぜか今村昌平の映画は非常にフランス映画的なエスプリ(俳諧趣味)を感じさせていて、皮肉とユーモアが占めていると思うのは私だけ❓
似太郎

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