義民伝兵衛と蝉時雨

國民の創生の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

國民の創生(1915年製作の映画)
3.5
KKKが英雄として描かれている人種差別的な問題作として有名なこの作品。どの様な内容なのか気になり鑑賞。

100年以上前に作られた作品だが、その年月を感じさせない程の映像表現の素晴らしさとクオリティの高さに驚いた。無声映画だが物語が非常に分かりやすくて引き込まれた。そしてただ単に差別的な描写が酷いだけの作品という訳ではなく、しっかりとしたストーリー性や娯楽性、そして芸術性など、映画的な面白さがあるので予想外に楽しむことができた。感情を揺さぶってくるメロディの電子音楽のようなBGMも印象的。出演している女優(リリアン・ギッシュ、ミリアム・クーパー)の美しさも印象的だった。

しかし「特定の人種の思いは反映させずあくまで歴史に忠実に再現した」というようなテロップが出るが、白人至上主義の思想が完全に根底にこびりついていて、やはり噂通りの偏った人種差別的描写がとても酷い作品だった。上記に書いた映画的な面白さに、この白人至上主義の思想が上手く溶け込んでいるので、黒人を悪だと植え付け洗脳するにはとても影響力のある強力なプロパガンダ映画だと思った。公開当時はテレビやインターネットも無く情報量が極端に少ない時代だったから、本当に影響力のある恐ろしい映画だったと思う。

映画的な面白さがこの上無く上質なだけに、人種差別的な要素がなければ点数は遥かに上だった。偏見や迫害、過去にこんなにも差別的で狂った作品があったのだと、アメリカ映画の黒歴史に触れることのできる歴史的な問題作だった。