このレビューはネタバレを含みます
〈時間が通貨という非道さ〉
・時間を稼ぐために時間を使う
・時間でコーヒーを買い、そのコーヒーを
飲むのにも時間を使う
・ただそこに存在しているだけで常に通貨
が減っていく
・人を助けてる間にも自分の余命が減るなど、
「時間が通貨」という設定の無慈悲さを、唸ってしまうほど見事に描いている。
金(時間)持ちは走らず、貧乏人だけが走るという、これまた面白い演出。
時間管理局の連中が、1人(レイモンド・レオン)を除き、身を粉にするほど本気で追いかけてこないのは、自身のライフ(余命時間)を減らしたくないという意識や、あまりこの世界に対する愛着がないということなのだろうか。
〈「時間が通貨の世界」の理の不透明さ〉
本作はとにかくこの設定、世界観が面白く、「一つの世界」を見事に映像の中に創り出したなと感じる一方、この世界の道理や骨子となる歴史が描かれきっていないように感じる。
例えば、この世界において
・「時間」は有限なのか、そうであるなら
この世にどれだけあるのか、どこから生
まれているのか、どう循環(誕生⇔消
滅)しているのかなど、現実世界の「お
金」と比べてみると実に不透明である。
・時間管理局やギャングが声高に叫んでい
た「時間の管理」や「体制」にはどんな
意義があるのか、前項によってこれもま
た不透明。
・主人公・ウィルに1世紀分の時間を与え
たヘンリー・ハミルトンや、タイムキー
パーのレイモンド・レオン、シルヴィア
の父・フィリップなど、それぞれのバッ
クボーンや信念を行動や言動から「察す
る」ことはできるものの、もっと映像と
して描き、それぞれのキャラクターを好
きになることができれば、それぞれのキ
ャラクターの考えや立場から織りなされ
る展開がより重層的に、深く感じられた
のではと思う。
Blu-rayの特典映像に「タイムゾーンへのインタビュー」なるものがあり、それを観るともう少しこの世界観への理解が深まるのかもしれない。が、数十分あるそれを観るほどハマってもいないのだ。
それは本編で描いてくれって感じ。
〈シンプルにツッコミどころ〉
・エリアとエリアを繋いでるゲートが、ま
さかの車のタックルで破壊できる脆さ。
・大量の時間を手に入れた途端富裕層エリ
ア行き、余裕こいて豪遊するという主人
公・ウィルの「お前オカンの仇とるんち
ゃうんかい」感
・主人公・ウィルが、シルヴィアの父・フ
ィリップのボディガードに紛れ込んだ
り、そこに向かうまでに想定される困難
(エリアの通過など)が丸々カットされて
いる(この箇所だけで限らず、本作は全
編的に「面白い展開を詰め込んだ」とい
う感じの映画であり、常に面白くはある
ものの、時間を忘れるような没入感はな
く、実際時間よりも長く感じる)。
・劇中余命数時間のキャラが、現実で10秒
経過する頃には、劇中余命が残り5秒に
なっていたりと、劇中の時の進み方やそ
の描き方が、現実世界との乖離が激しく
感じられるシーンが多くある。
・バトルのコツが謎。「自分の時間をわざ
と相手に奪わせて、相手が自分の腕を見
ているのに夢中になっている隙に奪い返
す」ということだった気がするが、この
作戦、コツが全く意味がわからない。批
判でもなんでもなく、本当にこの意味を
分かる人がいたら教えていただきたいで
す。
〈総括感想〉
自己実現や受験勉強など、人間は社会で生きていくためのいわゆる「未来への投資」に多くの時間を費やすが、「今」「この瞬間」を楽しむことを忘れないでおこうと感じた。シルヴィアが父に向かって放った「1日でも大切に生きたことがある?」的な台詞が刺さる。
SFとしてなかなか面白い。映画を整理する際、SFというジャンルにおいて名を挙げずにはいられない1本。
先に指摘した点も踏まえて、ドラマで丁寧に描いたら途轍もなく面白く壮大な作品になりそう。