菩薩

わが故郷の歌の菩薩のレビュー・感想・評価

わが故郷の歌(2002年製作の映画)
3.6
社会性を多く含んだ優れた娯楽映画。国民的大歌手ミルザの元に駆け落ちした元妻から救いを求める手紙が届く。彼は二人の息子を無理やり引き連れ、彼女を探す旅に出かける、と言うロードムービーの体裁の中に、国を持たずとも豊かな文化を保持しながら逞しく生きようとするクルド人の姿を描き出す…と言いたいところだが、平和でコミカルなのは前半だけで(まぁ強盗とかあいますけど…)、後半はイラン・イラク戦争、それ以後のサダム・フセインによる非道な大量虐殺が齎した窮状を告発する内容となっている。大空を切り裂き轟音を撒き散らしながら終始飛び交うイラク軍の爆撃機、広陵とした荒野に広がる難民キャンプ、親御を奪われた多くの戦争孤児達、掘り起こされる大量の虐殺遺体を前に泣き叫ぶ女達、そんな悲惨な光景を潜り抜けようやく元妻の元に辿り着くも、彼女もまた化学兵器使用の被害に遭い深刻な状況に追い込まれいる有様。監督の深い怒りが伝わって来ると同時に、鳴り響く彼等の歌はクルド人の誇りと人間の尊厳を高らかに謳いあげ、その希望は未来を担う子供達に託される。印象的なのはやはり戦闘機の轟音をも取り込んだ演奏シーンかな、オマール・スレイマンみたいな高揚感がある。全体的にとっ散らかってはいるがロケーションがチートだし、監督の意図と志の高さは大いに尊重されるべきだと思う。
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