垂直落下式サミング

七人の侍の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

七人の侍(1954年製作の映画)
5.0
日本映画史上最高傑作のひとつ。
ストーリーは、様々な立場の人間が集まって、ひとつの目的のために団結し、それを成し遂げるというものであり、多様な個の在り方を受け入れてそれを賛美している。普遍性を持った国民的な作品といえる。
それほど大切ではなさそうな台詞が後の展開を示唆する伏線となる巧みや、役者のさりげない所作でキャラクターを肉付けしていく非言語的表現を用いた説明など、映画として高密度なところを語っていくときりがないのだけど、本作がおもしろいのは、徹底的に戦いというもののリアルをロジカルに見せていくということだ。「野伏せりは残りあと何人だ」とか「村のここに守りの陣をしく」というのを、侍たちはいちいち絵に描いて作戦を練り、現在の状況を視覚的に見せていく。これによって観客に長尺の物語を見失わせない。
本作は、斬られた人が倒れる瞬間をスローモーションでみせる。死を劇的に描く。しかし、劇的である一方で、非常に淡白でもある。仲間たちは、たとえ腕のたつ剣豪であっても、どこかわからないところから放たれた鉄砲の玉に当たって、なんだかわからない様子で死んでいく。三船が演じる菊千代に至っては、泥水のなかに顔から突っ伏して、ふんどしを食い込ませた尻をみせた滑稽とも言えるような死に様で、血泥のなかに果てていくのだ。
農民たちの描きかたも鋭い。前半は力を持たず助けにすがる哀れな民かのように描かれるが、後半で強調されているのは、彼等が容赦なく野武士を殺すグロテスクなまでの残虐さだ。こいつらはもともと、戦から逃れてきた落武者がひとりでいたら、寄ってたかって身ぐるみを剥ぐような奴らなのである。おばあちゃんまで鍬をもってなぶり殺しに参加しているではないか。
戦いとはこうだろう、死とはこうだろう、農民とはこうだろう、ドラマとはこう描くのだと、この大作アクションエンターテイメントは、映画史にドデカい金字塔を打ち立てた。空前絶後のチームアクション映画である!
本作が世界にあたえた影響ははかり知れない。ハリウッドリメイクの『荒野の七人』は言うに及ばずだが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の沼地のシーンで、マックスが皆を残して霧のなかに消えていって、たったひとりで武器将軍を倒し武器を手に入れて戻ってくる場面や、『キン肉マン キン肉星王位争奪戦編』にて、キン肉マンソルジャーがコスチュームを黒く染め上げて牧師に扮し、強盗を油断させて人質の子供を救う場面など、古今東西の様々な作品にこの映画の影響がみられる。なんという冷静で的確な判断力なんだ!
男の子映画としての視点に目を転じてみるとさらに閃きが増す。菊千代という姫を中心としてみんなが彼を可愛がる三船敏郎総受け状態となり、またはほかの誰かが張り合って嫉妬の対象とする様子は、はてしなくBLの世界である。
七人という人数も重要なポイントだ。「7」は素数。けしてチーム内で固定の二人組カップリングにはならず、割りきれないのである。割りきれない人数の集団は、割りきれない関係性を築いていく。黒澤はこの時点で萌えるチームもののツボをおさえまくっているのだ。
神7侍を決定する人気投票をしたら、センターは勘兵衛や菊千代になってしまうだろうし、勝四郎や久蔵なども人気だろうが、俺の推しは五郎兵衛だ。