がちゃん

帰らざる日々のがちゃんのレビュー・感想・評価

帰らざる日々(1978年製作の映画)
3.9
このタイトルを聞いて、脊髄反射的にアリスの同名ヒット曲を思い浮かべた人は、たぶん同世代です。

1978年。
新宿で女性と同棲していた辰夫(永島敏行)が、思い立ったように故郷の長野県飯田市へ帰省するという。
同棲相手の瑩子は、その突然の行為に戸惑う。

そのまま何も言わず飯田行の特急列車に身を委ねていると、偶然、高校時代の学友と出会い、そのまま辰夫は、1972年高校時代の夏の日を思い出す・・・

誰にでもあった青春時代の夏の日の思い出。
その思い出は人それぞれであろう。
クラブ活動に燃えてた者、勉学に集中していた者、恋愛に夢中になっていた者、人生に悩んでいた者、挫折を味わった者。
その時の記憶は顧みてみるとどこか物悲しい。
誰でも青春ドラマの主人公になりえたあの頃。

本作の主人公に、そんな夏がセミの声とともによみがえってくる。
それに、初体験の思い出が加わると、さらに甘酸っぱくなる。

そのころの人生の交差点に入っていたヤクザや離れていった父親や、金にものを言わし周りを牛耳っていた成金男など、ほんの数年成長した自分にとって大したものではなかったことに主人公は気づく。

展開されるエピソードは、それまでもいろんな作品で描かれてきたもので目新しくはないのだが、それでも、自分の青春は特別だったという思いを思い起こさせてくれる藤田敏八監督のタッチはノスタルジィの極み。
祭りの場面が印象的な飯田の風景は、誰にでもある青春の原風景を詩情たっぷりに演出する。

作品としては甘ったるくて、同じ日活制作でアリスの楽曲がタイトルになった『狂った果実』(1981)のほうが、より屈折していて共感出来て好きなのですが、70年代テイストはたっぷりで嫌いになれない作品です。

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