Ibe

早春のIbeのレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
5.0
サラリーマンの悲哀を通して描く人生観。小津監督の映画らしく味わい深い会話がいくつもあって面白かった。主役の池部良さんは知る人ぞ知る立教大学のレジェンド。映画の中で不倫、友人の死、地方転勤と身の回りにいろんなことが起きるんだけど、ハンサムな顔立ちはどこか無表情。掴みどころがなくて感情移入に苦労した。それでも妻が身籠った友人に対して語った「子供観」とか、戦友との会話にあった「手に職をつけている人が羨ましい」っていう台詞は、男の本音を飾らない言葉で表現していて好感を持てた。自分が小津監督を好きな理由って意外とこういうところ、つまり平凡な男心を代弁してくれるところにあるんだろうな。

まあそんなことより一番気になったのは当時の「通勤仲間」と呼ばれる謎のコミュニティ。あの殺伐とした満員電車で友達の輪を広げようとするなんて戦後のサラリーマンは逞しい。その通勤仲間で昼休みに内濠の土手に集まったり、休日に江の島までハイキングに出掛けたりするシーンは青春群像劇みたいで眩しかった。もし小津監督がそんな映画を撮ったら間違いなく面白い作品になっただろうな。

最後に覚え書きとして映画に登場した二つの英単語を記しておく。Humanism(人道主義)とSelf-examination(自省)。ワードセンスが絶妙。いつか自分にも不倫を論じる機会があったら是非使ってみたい。
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