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早春のcatmanのレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
4.5
1. 淡島千景みたいな素敵な奥さんがいるのに浮気するんじゃないよバカヤロウって思う人の割合83%
2. と思いつつキンギョにお好み焼き屋でモーション掛けられて拒否できる男性の割合49%
3. 酒を呑みながら仕事の愚痴を言うシーンに共感して苦笑いする現代のサラリーマン率77%
4. 酔っ払ったグダグダの仲間が自宅に押し掛けて来てヨメに怒られた経験ある人の割合32%

60年以上も前の映画ながら、ここで描かれている夫婦の不安定な関係性やサラリーマンの悲哀というものは呆れるほど現代のそれと大差無い。物語が普遍的である分、シナリオに意外性が欠ける気もするが、それを小津特有のショットや含蓄のある台詞、侘び寂び感溢れる独特の間で味わい深く見せる。深刻なシーンで流れる軽快な劇伴も実に巧み。
自分の出来心から招いた夫婦別離の危機、東京本社から僻地工場への突然の転勤辞令に苦悶する主人公の池部良は、しかし終始無表情でその内面が深く描かれる事が一切無いので逆に周囲の人々の存在感が際立つ。特に淡島千景、岸恵子、浦辺粂子、杉村春子ら女優陣が素晴らしい。もちろん男優陣も大変良い。特に印象に残るのは、抑揚に乏しい標準語を話す面々の中でひとり活き活きとした関西弁を話す田中春男。
ラストは観客の期待通り夫婦が再生して肯定的にライフゴウゾン感を押し出してはいるが、それを素直に受け止める事が出来ない監督の冷めたシニカルな視点も感じられるのは私が天邪鬼だからでしょうか。その感覚は、病死した同僚そして亡くなった赤ん坊やこれから産まれてくる子供に対して登場人物が不自然なまでに薄情な反応を見せる様を強調してくるあたりの違和感にも起因するのかもしれない。監督自身は生涯独身であったわけで、笠智衆による主人公への「夫婦ってものは〜」と言う型通りの説教もどこか空虚に響く。
結局のところ、観客自身の置かれた環境が受け止め方に大きく影響して来ますよね、こう言う映画は。

ところで小津作品では常に固定されているはずのカメラが二度ほど会社内の廊下を画面奥のオフィスに向かって移動して、物凄く不穏な雰囲気を演出するんだけど、結局何も無し。あれ何だったんだろ?

冒頭部分は じょりさん @sleepgoandsmile のレビュースタイルを拝借しましたm(_ _)m
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