赤ブレサザエ

ローマの休日の赤ブレサザエのレビュー・感想・評価

ローマの休日(1953年製作の映画)
4.5
【アベサダとモンダミンとノーフューチャー】

真実の口にジェラード、スクーターデート…。観たことがない人でも名シーンを2つ3つ言えてしまうというものすごい作品。
いくら有名な作品であっても、観たことのない人に知っているシーンを尋ねて返ってくるのはたいてい1シーンくらいだと思う。「タイタニック」なら船の先で飛んでる気分になるシーン、「愛のむきだし」なら安藤サクラが板尾創路をアベサダしちゃうシーンとか。

そんなところからも、この作品の位置付けがどれほど高いかというのがわかる。映画ファンでない人にまでタイトルが広く認知され、そのタイトルからさらにロマンチックな空気感まで想起させてしまうような作品はなかなかない。
群馬県に行くと、県の観光促進ポスターでモンダミンの化身こと井森美幸と中山の秀ちゃんが掲載された「グンマの休日」なるポスターが貼ってある。作品イメージと群馬県のイメージとのギャップを生かしたギャグ。公的な金を使ってこれをやる価値があると認められるほど、作品イメージは定着している。

そこまでの作品だと、ついつい知っている気になって観るのを後回しにしてしまったりする。

白状すると、タイトルから漂うロマンチックな空気も、レンタルの棚に手を伸ばすのをちょっとためらわせる要因でもあった。
「お姫様願望ある女どもがオードリーに自分を重ねてふわふわした気持ちになる感じのあれだろ?ノーフューチャー!」なんて印象まであった。

ところがですよ。鑑賞すると最初から終わりまで、ずっとニヤニヤしてる自分がいましてね。ロックンローラー気取って的外れな毒を吐いていた鑑賞前の自分をぶん殴りたい気持ちにかられましたね。すみません、大好きな映画です。

まず、とってもきれいじゃないですか。主演2人が。画になるローマに画になる2人。これだけで見とれちゃうんですよ。

それでですね、もちろん最初に挙げたようなシーンは名シーンですけれども、それ以外の場面もとっても愛らしいんです。交わすセリフも洒落が効いているのに鼻につかないんですわ。

さて、恋愛映画をそれほど多く観ない私。それでもこの作品を観た後の爽やかで切ない余韻は、好きなジャンルの作品を観た時のそれだった。
その「好きなジャンル」というのは、青春映画。

いろいろな形の青春映画がある中、ここで言っているのはド直球の爽やかなやつ。
青春映画が良いのは、登場人物が生き生きと一瞬を過ごす姿に、人生で許された特別な時間である青春はいずれ終わりを迎えるのだというはかなさが宿っているところ。生き生きとすればすれほど、そのはかなさ、切なさは色濃く感じられてくる。

この作品にもまた、いつか終わりを必ず迎える青春のはかなさがある。

だからこそ、愛らしいシーンはより愛おしく、オードリーらの魅力的な笑顔はさらに輝きを増す。

もう一つ青春映画…というか、この作品と青春の在りようとが共通するのは、終わりを迎えてもその記憶はいつまでも美しく残り続けるということ。

鑑賞してからしばらく経つけれど、こうしてレビューを書きながら作品を振り返ると、自分の青春時代を思い出すときのような、切ない思いに駆られる。