赤ブレサザエ

ラヴレースの赤ブレサザエのレビュー・感想・評価

ラヴレース(2013年製作の映画)
4.0
【スケベな気持ちにカウンター♡】

 映画を観る。芸術評論家のようにお高くとまって画面に向かうときもあれば、頭空っぽでサブカルチャーの一消費者になるときもあり、また人には言えないような下種な欲求に突き動かされるときもある。

 どんな気持ちで観たって間違いではないし、いろんな気持ちで観られることが映画の魅力だったりする。

 などと物知り顔で語っているけれど、要するに「あのアマンダ・サイフリッドが脱いだ!」ということで思わずこの作品をレンタルしてしまった自分を正当化したいのである。

 結果から言うと、この動機で観てこそ、実在のポルノスター「リンダ・ラブレース」の伝記映画である本作のメッセージは強烈に伝わってくる。

 …内容の紹介に入りますが、伝記モノという特性上、彼女の人となりを知っている方にとって以下のレビューはネタバレにならないでしょうが、そうでない方はこの先を読まず、何も前知識を入れずに鑑賞していただきたいです。

 前半は私をはじめとするスケベどもの気持ちを裏切ることのないシーンを織り込みつつ、アマンダさん演ずるところの主人公、リンダ・ラブレースが旦那とのコンビでポルノスターの道を駆け上り、ステージでスポットライトを浴びるまでの顛末を、70年代フィルム作品的な色味の映像、コメディ感のある軽快なタッチで描ききる。

 そこまでがリンダ・ラブレースの「光」。後半は打って変わって「影」を描く。

 前半で描かれていたシーンの裏で、いったい何があったか。暴力と望まぬ性だ。前半では男ならばスケベ心を持ちつつ観るであろうシーンが、別な視点で語られることですべて苦々しい場面に塗り替えていく。主人公に同情せずにはいられなくなる。

 そしてラスト。ラブレースは嘘に固められた輝かしいポルノスターとしての自分ではなく、一人の人間としての人生を主張し、女性への暴力、ポルノの在り方について訴える。

 当時の人々にとっては衝撃だったであろうラブレースにまつわるこの変遷を、我々は映画を通し追体験することとなる。この構成は見事だ。同一の出来事を多角的に描くことは特別に珍しい手法ではないが、この映画の場合はそれが単なる小手先だけのものでなく、メッセージを伝える上での最善の方策になっている。男のスケベ心を手玉に取り、カウンターパンチのように社会性に満ちたメッセージをぶつけるのだ。その鮮やかな手腕に震える。

 彼女が訴えたかったメッセージを強烈に宿した本作は、本人への限りないリスペクトに満ちている。

 一人の家出少女の物語、というこの作品独自の味付けも素敵。

 画面の前に座っている自分の気持ちもまた、作品を観る前と後とでは本作の前半と後半のごとく、全く違ったものになっていたのでした。