都部

フィールド・オブ・ドリームスの都部のレビュー・感想・評価

4.4
野球という普遍的な球技を題材として、個人/故人の人生に残された悔恨を解消する優しき作劇として上等のそれで、野球好きの父親との断絶を心残りとする語り部の人生をも救い取る結末は至極の一言である。

かつて不当に追放された故人の野球選手達が自作の野球場で野球を始める──というファンタジー要素と人生に痼を抱えてしまった者達による地に足着いた人間ドラマの奇妙な同居によって独特の雰囲気を獲得している本作だが、それが受け入れ難いという印象は抱かずに声に導かれるままにその答えを求めて奇妙なロードムービーが始まりを告げる脚本の軌道は素朴ながらたしかな訴求心/推進力を持っている。

派手派手しさとは無縁だがしかし確実に個性的である端役たちに囲まれた物語は豊かさを得ており、これによる掛け合いの面白可笑しさも気が利いてて好ましい。脚本に無駄がないというのは安直な言い方だが、構成されるシーンの連続に一切の淀みがなく、その素直さが作風に一致していると感じられるために呑み込みやすく作られているのも良かった。

またマウンドから降りて野球を辞めたあとの人生すらも肯定する姿勢が見られる終盤はとにかく愛おしく、そんな作風が綺麗に結実するラストシーンは言葉を尽くす価値のある完璧な終幕と言ってもいいだろう。
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