DVDを再生すると淀川さんの解説から始まる
淀川長治さんの世界クラシック名画100撰集(67)
淀川さん「これ、ただの『ドン・ファン』言わないの。ジョン・バリモアの『ドン・ファン』言いますね」
淀川さん、ジョン・バリモアをベタ褒め
淀川さん「ジョン・バリモアはすごい舞台俳優。奥さんも兄弟もみんな役者さん。この一族、別名ロイヤル・ファミリー・オブ・ブロードウェイ」
ふむふむ
ジョン・バリモア、もしやと思って調べたら、あのドリュー・バリモアのお祖父さんでした。ジョン・バリモアの息子がジョン・ドリュー・バリモアで、その娘がドリュー・バリモア。ドリュー・バリモアの大伯父はライオネル・バリモア(『素晴らしき哉、人生!』に出てました)で、大伯母はエセル・バリモア(『らせん階段』『パラダイン夫人の恋』に出てる)。バリモアバリモアバリモア。このレビュー、バリモアで埋め尽くす勢いでいきたい。
淀川さん「あのダグラス・フェアバンクスも『ドン・ファン』を演じたんですね」
話が変わりましたね。『バグダッドの盗賊』(1926)の主役を演じた快男児ダグラス・フェアバンクス。ボリウッドに出てきてもおかしくないほどの肉体派の彼が演じた『ドン・ファン』(1934)もちょっと観たくなりました。
淀川さん「ジョン・バリモアは『グランド・ホテル』にも出てるんですね」
また話が変わりましたね。『グランド・ホテル』の見所を一生懸命教えてくれます。大変有り難いのですが、こちらとしては、そろそろジョン・バリモアの『ドン・ファン』の見所を教えて欲しいところ。
…
…
終わり?
どうやら見所はジョン・バリモア、その人の模様。
『ドン・ファン』
その始まりですが、ゆっくりと仰々しく映画の素晴らしさを語る人が出てきます。えーっと、まだ本編じゃないよね。映画の新しい時代へようこそとか、ワーナーへの賛辞とか、そういうの、もういいから。もうその時代、通りすぎてるから。
これが4分間続きました
この演説、いる?どうしてもって言うのなら縮めて3分間スピーチにしてみない?ダメ?
そこからオーケストラの演奏が始まります。
これが10分間続きます
次にヴァイオリンのソロ演奏が始まります。
これがまた約7分間続きます
有名曲だし確かに上手いけれども!!!
ぜんぜんドン・ファンが始まらない!!
私は映画を観たいんだけれども!!!!
次にギターのタッピング演奏が始まります。
あっ!!ウクレレに持ち替えた!!!
上手いね。
あっ!!更にブルースハープっぽいの咥えた。ウクレレしながらブルースハープね。
確かに上手い!上手いけれどもっ!!
おいっ!!!!!
ここら辺で気づきます。気づいちゃいます。これ、まさか2時間49分の間ずっとこの調子なんじゃない?
信じられない。
旋律しました。
もとい
戦慄しました。
おっと、今度はマンドリン?(バンジョーでした)に持ち替えた。
もしかして、この人、この芸達者な人が、ドンファンなんじゃないの?この映画、ジョン・バリモアによるドン・ファンという名の新春隠し芸大会なんじゃないの?ドン♪ドン♪ファン♪ファン♪ドン・ファンファン♪しちゃうんじゃないの?
旋律した
次に始まるのはオペラでした。ふむふむ。もう驚きません。そういう映画だこれ。ピアノとヴァイオリンによるベートーベン、そしてまたオペラ、からのオペラ…
もはや学芸会に近い。しかも自分の子供が出てないやつ。そんな心境。せめてプログラムが欲しいなあ。そしたら「覚悟」できるのに…。この時の私は死んだ魚の目をしていたかもしれない。
そして観始めてから約58分後
いきなりドン・ファンが始まります
なんだ、あるじゃん!!!
映画あるじゃん!!!!!
しかもサイレントて!!!
なんで?
さっきまで演奏したり歌ったりしてたや~ん!!!
なんかもう色々と規格外。初めて「ボヘミアン・ラプソディ」を聴いた時ぐらいの衝撃はありましたね。
物語はドンファンの子供時代から入るのですが、ハッとするような美少年にその才覚が伺えるわけです。その運命がもうね、人生これ全部モテ期。このドンファン、成長するとね、ジョン・バリモアになるんです(知ってた)。
ドンファンの屋敷にはいったい何人の女性がいるん?同時に何人と逢瀬してるん?ドンファンのモテさ加減が凄まじい(笑)
なんと言っても特筆すべきは初対面の女性に対する距離の詰め方ね。圧巻。気づけば手を握ってるし、キスまであと10cmぐらいになってる。ATフィールド全開にしてても瞬時に中和して入りこんでくる。にゅるっと近づいてくる。すごい。何がそうさせるんだ?あのチョビヒゲか?それともタイツか?(ちなみに後半のタイツのおしゃれさは異常)
ジョン・ドンファン、モッテモテですやん!!
この映画は、映画史上最も多くの接吻(手の甲にするやつ含む)の場面が盛り込まれている映画であり、このドンファンは、劇中、191人もの女性と接吻するんだそうな。女性の名前が出てくるけれども、いちいち覚えてられないし、数えてらんない。
なにこのモテ映画!!
規格外!!!
前半の演奏会のおかげで、ストーリーを味わえるってだけで楽しくなるから本編が楽しくてしょうがない。男子校の購買のお姉さんが大人気の原理だな。作戦勝ちですね。
やがてドンファンさん、ローマの支配者、かのボルジア家に招待されます。その招待状、毒とか塗ってないから(笑)チェーザレ・ボルジア、ルクレツィア・ボルジアが出てきます。このボルジアさんちは恐ろしいんですね。しれっと毒盛られたりします。招待状を手で触らなくて正解だったんですね(笑)
権謀術数とはまさにこのことかな?ファム・ファタールの名を欲しいままにしたこのルクレツィアさんは、色男ドンファンを手に入れようと策を練ります。まあほら、これフィクションだし。そういうこともあるよね。
立ち向かうはモテ男、武器は「だだ漏れるフェロモン」のみ。真実の愛を知り、強大なローマの支配者を敵にまわしてしまった伊達男。果たして、我らがドンファンの運命やいかに!?
セットがすごいなあ。金かかってるのが分かる。でっかい門とか大階段とか『イントレランス』というよりも『バグダッドの盗賊』っぽかった。
しかしこの男、女性の部屋に窓から入ってくる。夜、遅ければ遅いほど勝手に入ってくる。ドラキュラの走りですね。恐るべし、ドン・ファン。
一人の女性を巡り、二刀流の剣で戦う決闘シーンは迫力があって面白かったですね。あの大ジャンプもすごかった。この色男、やればできる子でした。
絶望の独房で、自分のしてきたことのツケを払わされる所とか、ラストの馬上の大立ち回りとか、意外にも(失礼)映画として見応えありました。期待を上回りました。でも、あれ、馬大丈夫?
鳴り響く鐘の音や、はげしくキンキンとぶつかり合う剣檄の音は、確かに映像と音響が同調してましたね。でもこれサイレントだからトーキーではないと思うのです。やっぱり。