ダンクシー

Kids Return キッズ・リターンのダンクシーのレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.3
「まーちゃん、俺達もう終わっちゃったのかな?」
「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」

たけしが出てないから新鮮だった。そして久石譲のサントラがずっと耳に残る。
夢も目標もないバカな二人組。それぞれがボクシングの道、ヤクザの道を進むのだが、すれ違いながらも徐々に交錯していく感じがとても良い。思春期のもどかしさを繊細に、キタノブルーを使いながら描けていた。

たけしは暴力を描く監督だ。今作はどちらかというと暴力よりも"暴力性"を描いていたように思う。若者と大人、それぞれが持つ暴力性。若者は言うまでもなくだが、特に大人に関しては"大人の醜さ"を生々しく描いていた。例えば、不良の若者を下に見るどころか人間としてすら見ていない教師たち、ボクシングの才能がある主人公を飲みに連れ回して堕落させるボクサー、人情を持って接して両親を心配しながら可愛がっていた若者を容赦なく懲役の代わりとして警察に突き出させるヤクザの親玉、厳しすぎる指導でボクサーの才能を潰すジムの会長、部下達を怒って追い詰める営業管理職達、など。
大人だからといって完璧では無いし、正しいわけではない。現実は、そんな大人たちによって彼らよりも未熟な若者の人生が潰されていく。彼らも若い時は同じようにギラギラして夢を追いかけてたんだろうけど、その時の大人たちに潰されたんだろう。社会はそれのサイクルなんだ。負の連鎖なんだ…。
残酷だし理不尽だしこんなのクソでしかないけど、それがリアルなんですよね。たけしは真っ直ぐ目を逸らさずそんな社会を冷静に見ている。世の中をなめんな、ってことですよね。たけし自身が誰よりも世の中をなめていないからこその視点でありメッセージなのだ。。
それでも、若者の中で唯一人生が成功していたのは漫才師になった同級生二人組だ。救いのない社会を描きながら、その中で何を言われても自分たちを信じて突き進んできた彼らは夢を叶えているという描写に希望を残してある。たけしの持つ優しさを感じた瞬間である。

人生なんて、うまくいかないもんなのよ。結局タクシーの運ちゃんになった同級生だって、それを描きたかったから出てきてた訳で。
ラストも、絶望なのか、あるいはやり直せるという希望なのか、どちらとも解釈できるのが粋だなぁと。人生なんていくらでもやり直せる。やり直せないのなら、それはそいつ自身がダメなだけなんだ。
海外では「これは終わった、バッドエンドだよ」という解釈だが日本では「いやいや終わりじゃない、ここからだ」みたいな解釈で、海外と日本では捉え方に違いがあるというのをたけしが語っているのが面白い。
自分は、絶望であり希望であると思っています。二人は終わりなんですよ。終わったも同然。若かった頃のエネルギーはもう二度と出せない。要するに、ボクサーとかヤクザで成り上がっていたあの頃の輝きはもう二度と訪れないという絶望と、そこまでは不可能でもやり直して生きていけるという希望だと思う。完全な希望を残すほどたけしは甘くない。リアルを描いてるし、何度も転落したたけしだからこそ何より"終わり"を知っているはず。だから自分を重ねてる節もあるのかなと。
邦画史に残るこのラストシーンに、俺は盛大な拍手を贈りたい。

あと、校庭を二人乗りしながらグルグル回るのが、なんとも自由気ままな2人の表現としてあまりにも模範解答すぎて感心したし、新車を自慢してくる教師の新車にイタズラする不良たちが、昭和の親世代の人達から聞いた話と完全一致してて最高だったな〜。当時の教師なんて嫌な奴ばっかだったらしいし、新車で来る度に車に悪さするのは日常茶飯事だったらしいですし。ひどいけど笑っちゃうな〜。というかたけしも昔さんまの車をめちゃくちゃにしてましたよね笑 そういうのを思い出したりして懐かしくなっちゃったりしました。世代じゃないですけどね!
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