最初に観たのは30年前近くになりますが、ジュリー・デルピーを「汚れた血」で発見して、「トリコロール」を観た直後くらいだった記憶があります。リチャード・リンクレイター監督もまだ新人で、ほとんど2人の男女の会話劇という斬新な作風もあって、日本でもかなり話題になりました。
いわゆる“ナンパ”なわけで、こんな男女の出会いは男性にとっての妄想でしかありませんが、2人のやりとりや表情にまったく嫌味を感じません。アメリカ人とフランス人の男女がウィーンを散策するというシチュエーションも理想的で、美しい街並み、哲学的な人生観や恋愛観、ところどころで出会う地元住民との交流…、102分の短尺なので、アッというまにエンディングです。いろいろと印象的なシーンがありますが、レコード店の狭い試聴室でお互いにめちゃくちゃ意識しながら視線を送るのに、それが一度も交わらない絶妙な空気感…ここが奇跡的な演出になっています。
セリーヌは23歳という設定でしたが、彼女を演じたジュリー・デルピーの実年齢が26歳ころだったはずです。最初の登場シーンで思わず「かわいい」と言ってしまうくらいに素敵な女性でした。有名な場面写真のシーンですが、カフェで電話するふりの表情と小指を唇にあてているところのカットがものすごく印象的です。
若いころに観たときのエンディングのドキドキ感も忘れられません。携帯電話も普及していなかったころ、せめて住所と電話番号くらい交換すればいいのに…、おそらくお互いにフルネームさえわからないまま、異国間で離ればなれになっていいのか…、なんだか自分のことのように心配してしまいます。続編にあたる2作も観ているので、どんな顛末になるのかわかってはいますが、監督もそこまで構想していなかったであろう1作目としては、完璧な余韻を残すエンディングです。
ちなみに、久しぶりに観た日付が12月16日でした。まったく意識していなかったので、ちょっとうれしかったです。