Masato

泥の河のMasatoのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.3

戦争の生き残り、戦後の生き残り

太平洋戦争から約10年が経った戦後の大阪。うどん屋の息子の信雄は、近くに停まった船に住む子らと交流を深める。

子どもが主人公の郷愁を誘うノスタルジックな物語と当時の苦しい時代背景が伺えるドラマ。近年で言うとアイルランドの「ベルファスト」がそんな感じだったり、日本で言えば「三丁目の夕日」なんかがそういった雰囲気を持ち合わせている。こちらは欧州文芸映画に近い昔の邦画の雰囲気と日本の下町感が良い感じに合わさっていて最高に良い。是枝監督作品に近い。

どうやらスピルバーグが「子役の演出が素晴らしい」と絶賛した作品だそうで。是枝監督に通ずる、子役たちの魅力度の高さは本当に凄かった。特に水上生活者の姉弟。映像で語られなくても、描くキャラクターと演技だけで見えてくる二人の現在の生活に対する感情。特に姉の銀子は凄まじく光るものがあった。天真爛漫な弟に対して、11歳にして苦しい生活の人生に絶望的な感情を抱いている姉の、時々顔の表情に滲み出ているさまが見事すぎる。見ているだけで涙がこみ上げてくる。

見ていて時代は違えど、子どもたちが体感するアレコレの感情や行動は重なり合うものなのだなと思わせるノスタルジーな物語が最高。それとは裏腹に、暗い影を落とす戦争の爪痕。

太平洋戦争の生き残りが中心だった戦後社会。そしてこの後から高度経済成長期へと突入する日本。社会はどんどん戦争を忘れようとしているが、人生そのものが大きく変わり、どんなに忘れようとも忘れることのできない人間がいる。それはPTSDっていうこともあるし、貧困を余儀なくされている人もいる。その影響は家族にもわたって、子どもにまでも侵食していく。太平洋戦争時に禁歌とされていた「戦友」をきっちゃんが歌うところ…。

いかようにして「もはや戦後ではない」と言えようか。影響は薄れつつも、今の時代にまでもそれは続いている。景気が良くなっても、「昔の日本とは違う」ことを誇示することは、戦争によって苦しめられ続けていた国民たちを愚弄することになる。
戦争に行かされ、生き残りとされ、今度は社会に置き去りにされ、蹂躙された日本人。しかしながら、社会や時代が変わっていくことは必然。戦争が終わって立ち直っていくことも。いつまでも末端の人間はやられ損で悔しくて遣る瀬無い。戦争の生き残りを超えたら、今度は「戦後」の生き残りにされてしまう悔しさ。

そんななかでも、社会の変動に立ち向かってはつらつと生きる子どもたち。子どもが子どものままではいられなかった哀しさを孕みながらも、未来へと駆け抜けていく小さい大人たちの底なしの力に対しての究極の讃歌でもあった。
Masato

Masato