全体的に低調だった80年代の日本映画において、
この作品は十分にBEST1になりうる傑作である。
自主映画で作り上げた小栗監督の演出は、
第一回監督作品とは思えない巨匠然とした風格が感じられる。
昭和31年の大阪中の島付近。
岸辺でうどん屋を営んでいる父(田村高廣)と母(藤田弓子)の間に生まれた、小学校3年生の信夫。
ある日信夫は、
穴の開いたズック靴をはいた同い年の少年喜一と出会う。
二人はすぐに友達になり、
喜一は信夫を自宅に誘う。
戸惑う信夫。
喜一は移動する船の中に住み、
定住した住所を持たない船上生活者だったのだ。
そこには喜一の姉、銀子もいた。
そして、
声だけが聞こえてくる母親。
どうやらこの船の中で3人で暮らしているようだ。
船上生活者ということで、
同学年の子らから激しい差別を受ける喜一だったが、
信夫はそんなことは関係なく、喜一との友情を深めていく。
喜一と銀子は、信夫の家に遊びに来るようになり、
そこでの信夫の父の手品が二人を夢中にさせる。
信夫の父は、今度信夫と喜一と3人で、
天神祭りに行こうという。
『男と男の約束だ』と。
が、天神祭りの日、
父はどこかに失踪してしまい、信夫と喜一は二人だけで小遣いをもらい、天神祭りへ。
これが、悲劇の始まりだった・・・
信夫の父は、信夫に、『夜はあの船に近づいてはいけない』という。
信夫は意味が分からない。
喜一の姉銀子は、信夫の母からかわいいワンピースの洋服を着せてもらうのだが、無言できれいに畳んで返してしまう。
学校に行っていない喜一が、軍歌“戦友”をフルコーラスで歌い上げるシーンは名シーンだ。
信夫の父は涙ぐむ。
よその家のテレビをふたりで覗きに行くシーンはほほえましい。
祭りでの喜一のお詫びの気持ちなのだろうか、喜一は、『面白いもの見せてやる』といって、自ら集めた沢蟹にオイルをつけて焼いてしまう。
『残酷だよ』とつぶやく信夫。
そして、一番切なく胸を打つシーンが、
刺青の男に抱かれる喜一の母と信夫の目が合うシーン。
ここでの母親役加賀まりこの氷のような視線は忘れることができない。
別れは唐突にやってくる。
信夫と喜一はさようならも言わないまま、
船はどこかに去ってしまう。
どこまでもどこまでも追い続ける信夫。
(ああ、また涙が出てきた)
いつのまにか大人になってしまった僕たちが、
子供のころの純粋な心を取り戻すことができる、
そんな作品です。