金宮さん

カイロの紫のバラの金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

カイロの紫のバラ(1985年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

酒ギャンブル女ヒモDV、クズをフルコンプした夫との生活に苦しむセシリアの唯一の楽しみは映画鑑賞。いつものようにお気に入りの作品を観ていると、スクリーンの向こうから憧れのキャラクター、トムが現実世界にやってきてセシリアを連れ去ってくれる。

架空世界の理想キャラが、現実に登場する恋愛ストーリー。いまだに後追いされてるプロットだと思うんですが、やはりオリジンは一味ちがっています。トムを演じる、現実世界の俳優ギルも関わってきてヘンテコな三角関係となる。

全体的に感じるハッピーなトーンに「トムエンドは逃避がすぎるから、これはギルとくっついて終わりかな?」と思わせといて、そこはウディ・アレン、一筋縄ではいかない。トムもギルもセシリアのもとを去ってしまうという、ビターな展開で幕を閉じる。

でも、ギルのキャラ造形の細部まで見ると、実はこの結末も納得。ギルがセシリアに惹かれたのは「世間が認めない自分を認めてくれる存在だったから」。モラトリアムっぽい男ですよね。

なんとなくどこかにありそうな「推しの二次元キャラ(トム)にそっくりな、夢追いホスト(ギル)に入れ込む」的な設定を連想しちゃう。セシリアにはホス狂いのような破滅的なところはないんですが、危うそうな関係であることは否めない。

セシリアは最終的に行き場を失うが、クズ夫のところに戻る必要はない。仕事中、映画トークに夢中でお客を無視したりしなければよい。ちゃんと現実と折り合えばそこに希望はあったりするんじゃないかと思ったりもする。

映画をテーマにした映画ってその愛が強すぎてたまについて行けない時もあるのだが、キュートかつビターに描いており好みな温度感だった。

ーーーーーーーーー

鑑賞順が前後してるのだが、やっぱり『ミッドナイト・イン・パリ』を思い出す。

ファンタジックに逃避することは共通。「嫌いな現実が今作のクズ夫ほど露悪的でなく、主人公にも少し落ち度があるところ」「ラストは現世の希望を明示的に描いた」のが変化点。25年ほど経過し、ウディ・アレン心境の変化なのかなあとか想像する。

今作と2本立の名画座なんて最高ですよね。どっかで絶対やってると思うけど。

ーーーーーーーーーー

もう一つ連想したのが『寝ても覚めても』。
「同じ顔の男で揺れ動く」「理想とされる片方が現実離れしている」「最終的には現実と折り合わなければならない」など。ひょっとしたら影響を受けているのかなあ。

ーーーーーーーーーー

ギルがトムのことを「僕がつくったキャラクターだ」と言ったときに、セシリアに「いやいや、つくったのは作家でしょ?」と言わせてみたり。トムが抜けたあとの映画を「金持ちが喋ってるだけの映画なんて観てられない」とくさしてみたり。随所にウディ・アレンぽい皮肉も潜んだたりするのも楽しい。
金宮さん

金宮さん