垂直落下式サミング

ほしのこえの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ほしのこえ(2002年製作の映画)
3.5
地球外生命体の脅威にさらされた未来のセカイが舞台。携帯電話のメールサービスをモチーフに、宇宙に旅立った少女と地球に残った少年の遠距離恋愛を描く。無名時代の新海誠が、ほとんど一人で作ったというインデペンデント作品。
SFの絡んだプラトニックな恋愛ものであるというストーリー上の前提をはじめ、映像においても電車、踏切、制服、雲、雨、雪、階段、ロケット、桜、教室、携帯電話など、新海的なモチーフが散見される。ぜんぶ乗っけ処女作。この一本を作り上げたら作家として終わってもいいと、若いクリエイターのパッションを出しきってる感に好感が持てる。
エリートパイロットの素養のあった女の子は宇宙に旅立って、男の子は地球で普通に進学してぼんやり。遠距離で、思いの届かない苛立ちを払拭できずに、ただ待つことしかできない。
最初のうちは、メールのやり取りをして思いを伝えあうのだが、距離がはなれるにつれてメールの往復にかかる日数は開いていき、かつては同じように進んでいたふたりの時間は、ゆっくりと、あるいは突如として急激にズレてゆく。残酷なまでに取り返しのつかない時間が、少年少女の恋心を引き裂いて…。
ロボットもので、青春恋愛もので、地球外生命体侵略もので、宇宙航行もの。いろんなジャンルをちゃんぽんしながら、アインシュタインの特殊相対性理論を扱っている。
しっかりと整合性のあるSFをやろうとしている一方で、興味があるのは少年少女の思春期の淡い恋愛であって、人物のエモーション優先。敵がどうだとか、戦況がどうだとかは、あくまでざっくりとしたもので、舞台の背景として描いている。
お互いの思いが時間を越えて届くことを願いながら、結局それは叶わない。人の思いでは物理は揺るがないことに対して、真摯向き合っている作品だった。
初恋の甘酸っぱさは、ずっと口のなかに含んでいると苦味に変わっていって、いずれは毒になって青春を棒に振ってしまうという結論は、『秒速5センチメートル』に繋がっていくものだろうか。
00年代のセカイ系な言い回しとか、ATGに影響を受けた私小説っぽい映像センスなど、今みるとめっちゃ恥ずかしくなっちゃうところがたくさんあるけれど、これはこれで歴史的な資料として割りきるがよし。