砂

風が吹くままの砂のレビュー・感想・評価

風が吹くまま(1999年製作の映画)
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初めてのキアロスタミ作品。

自然と一全となった昔の生活を送る美しい山の村へ、珍しい葬式を取材するため訪れた主人公はその時を待つが終始何も起きない。あまりにゆったりとした時間の中で、村人たちとの交流を介して少しずつ話は動く。

曲がりくねった道が何度も写される。電気はあるが電線はないという村では、小高い丘に行かなくては携帯の電波は届かない。
よく調べないで観ていたので、携帯が出たときは驚いた。

本作はこの携帯と丘が、外部との繋がりでありしがらみを象徴する重要なアイコンである。都会人は時間と仕事という枠組みに忙殺されているが、田舎は田舎でコントロールできない生活と因習に縛られている。
だがただひたすらに人の死を待つ主人公も、少しずつ心境が変化していく。
と、書くとありきたりな話であるが、本作はじっくりとその心情の機微を描いている。ほぼ全編、村人か丘での電話による会話しかない。そんなシチュエーションだからこそ、村でのゆったりとした時間を追体験しているような心持にさせる。会話と生活音、動物の鳴き声ばかりなのに、じつに静かな作品なのである。

そしてとにかく風景が美しい。自然、古い造りの村。こんなところを旅したいと思うような、抜群のロケーションである。
思えば長回しで写される象徴としての動物(カメ、スカラベ…)なども、あまり映画で見ることがあまりない。
1作だけでは何とも言えないので、他の作品も観てみようと思う。
砂