ジャイロ

風が吹くままのジャイロのレビュー・感想・評価

風が吹くまま(1999年製作の映画)
3.9
そこは黒い谷。斜面に沿って無秩序に建ち並ぶ日干しレンガの古い家々。人も🐂も🐏も🐕も🐓も、あるがままにそこにいる。

願いごとのスープ?

男は愛の生き物?

なにあれヒヨコ?めっちゃかわいい。

主人公の目を通して、まるで異邦人にでもなったつもりで異文化に触れる。どこか懐かしさすら漂ってくる木訥な暮らし。そこには国も時代も超越した、変わらぬ人間の営みがあった。

いつものように、キアロスタミ監督の思惑どおりに、目的がよくわからないまま話は進むのだけれど、物語が進むにつれて、まるで霧が晴れていくかのようにゆっくりと見えてくるその宝探し。飲みたくても、どうしても飲めない牛乳のように、それは人生と同じで思うようにはいかない。苛立ちが募り、言葉の刃が無垢な少年を傷つけてしまうから、観てるこっちまで心が傷んだ。そんな中で、ゆっくりとある疑問が鎌首をもたげてくる。

もしかして…

この人じゃ

ないんじゃないの?

そう思い始めると、決して画面に出てこないあの人やこの人も、もちろん画面に出てきた人たちでさえも、一転して疑惑の人に変わってしまうから面白い。一見平穏な黒い谷のその様相がまるで違って見えてくる刹那。しかしそれですら監督の掌の上でしかなかった。

青いドア、青い窓、まるで絵画のような借宿が美しい。劇中何度も目にする丘の風景は、最初気づかなかったが、見ていくうちにその美しさにハッとさせられた。風にたなびく麦畑の中の長い長い会話劇は、たまらなく桑の実の味がした。

それは死を見つめながら、生きることに目を向けはじめる男の物語。生と死をありのままに見つめ、あるがままの世界をfilmに捉えたキアロスタミ監督のメッセージ、うまく受け止められたかな