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好人好日のakrutmのレビュー・感想・評価

好人好日(1961年製作の映画)
4.1
変わり者の数学教授の文化勲章受賞や娘の結婚をテーマに、夫婦と一人娘の三人家族をコメディタッチで描いた、渋谷実監督のホームドラマ映画。京都大学や奈良女子大学で教鞭を取った世界的に著名な数学者である岡潔が、本映画の主人公のモデルとされている。奈良女子大は本作のロケにも使われている。

基本的な内容は、大船調のホームドラマの範疇である。ある家族の日常の風景や娘の結婚という、小津や成瀬の作品と共通するテーマを扱っているが、完全な喜劇として描いている点が異なっている。特に注目すべきは、飄々とした演技が持ち味の笠智衆に、エキセントリックな数学者を演じさせることで、ちょっと異なる側面を開花させたことであろう。コーヒーを飲めずに拗ねる笠、シャドーボクシングをする笠など、様々な笠智衆を見ることができる。人情ドラマとしてもっと深堀りできそうな両親と娘の関係が設定されているが、喜劇である本作では、そこにあまり力点が置かれていない。見る人によっては、その部分が物足りないと感じるかもしれない。

また、実年齢とはかけ離れている妻を演じた淡島千景も注目点であろう。モノクロということもあるだろうが、特に老けメイクをしなくても不自然さを全く感じさせない落ち着いた演技が素晴らしい。そして、デビューしてちょうど1年経った頃の岩下志麻の初々しさも見どころ。喜劇の早いテンポで演じるのが難しかったそうである。翌年には『秋刀魚の味』で再び笠智衆と親子役を演じることになる。
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