Omizu

エンジェル・アット・マイ・テーブルのOmizuのレビュー・感想・評価

5.0
【第47回ヴェネツィア映画祭 審査員特別賞】
『ピアノ・レッスン』ジェーン・カンピオンの長編三作目。ニュージーランドの国民的作家ジャネット・フレイムの自叙伝を映画化した作品。ヴェネツィア映画祭コンペティション部門に出品され絶賛、審査員特別賞他全7冠を受け日本でも大きな話題を呼んだ。

観ている間は少しかったるい印象があったものの、エンドロールに入った途端に涙が止まらなくなった。この文章を書いている間も思い出して泣いている。

「天才の孤独」というテーマが個人的にツボなのかもしれない。『永遠の門』も『セラフィーヌの庭』もそうだった。周りには理解されず何もかも上手くいかない。でも書き続けるジャネット。自分にはこれしかないと全てをなげうって。

一番いいシーンだったなと思うのは第二章中盤で、教師になったジャネットが監察官を目の前にして固まってしまい逃げ出すところ。子供なら大丈夫だけど、大人の鑑定する眼を目の前にすると何もできなくなるのすごく分かる。逃げだし、並木道を泣きながら歩くシーンのなんと哀しく美しいこと!

この映画の素晴らしいのは徹底してジャネットからしか描いていないことではないだろうか。外部の視点には一度もならず、ジャネットの視点でしか描かれない。

しかし外部を描けていないということではなく、よく見れば読み取れるようになっている。シンプルに上手い。残酷なことを直接描くのを避ける一方、喜ばしいこともまた直接描かない。

ジャネットの文章は出版され好評を博し、賞もたくさんもらっている。しかしそんなことはジャネット本人にはあまり関係がないことなのだ。どんなに栄誉ある賞をもらっても孤独には変わりない。その悲痛な現実を本人の視点に絞ることで的確に描写している。

内気で繊細すぎるが故に何もかも上手くいかない。しかし彼女は書くしかない。普通の人が手に入れられる幸せは得られないが、彼女にしか生み出せない芸術を持ち続けた。尊く美しい傑作だ。
Omizu

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