都部

ドラえもん のび太とふしぎ風使いの都部のレビュー・感想・評価

3.4
短編『台風のフー子』を原案として、劇場映画用のシナリオと併せて換骨奪胎を執り行ったことで、その原案の妙と映画的なダイナミックな展開を両立させることに本作は成功している。

物語の分岐点として、台風状の姿形をしたフー子が着ぐるみを纏って生活に馴染むという展開があり、このあざといビジュアルに対する苦言を呈したい気持ちもあるが、感情移入をより簡単なものとする生物感あるデザインへの変更は考えられている。それと最初に出逢うのがスネ夫で、敵役に乗っ取られるのもまたスネオで──と、ドラ映画で役目を与えられることの少ないスネ夫を物語の軸に据えた作品としても面白い。終盤にのび太がフー子の特攻に泣き腫らす場面があるが、場面として胸に来るのは誰よりもいち早くフー子に激励の言葉を掛けるスネ夫の姿であるだろう。かように本作はある意味でスネ夫を中心としたドラマが展開されるので。メインキャラクターの一人であるジャイアンの言動が抑え目なのはバランスを取るためなのか気になった。暴力は飽きたと言っているが、この時そういうのに厳しい風潮でもあったのだろうか。

現代を舞台としているが、風の村の民草の能力はファンタジーの域に片足を突っ込んでいて、ドラ世界に存在する不思議な存在として割り切れば文句はないけれど文化レベルが高いんだか低いんだか……。この民草との交流はフー子のそれと比較するとあっさりで、印象的なドラマや背景を持ったキャラクターに恵まれなかったのは少々惜しい気もする。

終盤の宝石とノアの方舟は劇場映画としてのスケール感を持たせる為のそれとしては優秀で、巨大化したドラえもんによる戦闘はかなり良い。フー子にも華を持たせたり、尺が90分未満と短いのに他の旧ドラえもん映画よりもちゃんとした終盤だ。敵役の二重の真相の開示も中々に良かった。
都部

都部