いかえもん

見えない恐怖のいかえもんのレビュー・感想・評価

見えない恐怖(1971年製作の映画)
4.3
先日観た「10番街の殺人」で、リチャード・フライシャー監督の鋭いカットにすっかり魅了されてしまって、絶対あと何本かはこの監督の映画を観たい!と思っていました。そこで今回はこれ。

事故で視力を失った主人公のサラは、叔父夫婦とその娘が住む邸宅に帰ってきた。恋人とのデートの後、家に帰るとそこにはなぜか人の気配がない。実は、彼女の留守中に一家は皆殺しにされていたのだった…。

やっぱこの監督好きだ。見せ方の上手さが、素人にもわかるくらいのカメラワーク。オープニングの足元だけのカットから不安になること請け合い。なんだか嫌な予感を漂わせつつ、恋人とのうふふあははなデートシーンを挟んでくるのだけど、そのデートシーンだけ見ると、まるで違う恋愛映画を観ているかのように優しい空気が流れる。しかし、だからこそ、そこから家に帰って、彼女が一家が皆殺しにされていることを知るまでの緊張感が一層際立つ。音楽一切なし、セリフもほとんどなし、ただただカメラワークだけで何が起こったのかわからないけど、不自然に静まり返った家の中、何かえらいことが起こったようだ…と思わせる。そして、踏みそうで踏まないガラスの欠片、触れそうで触れない血まみれの遺体、徐々に映画を観ている人には何が起こったのかの情報が与えられていく。その張り詰めた空気がすごいのです。気が付いたら体ガチガチになってました。そして彼女がついに殺人が起こったことに気が付くシーンの見せ方も秀逸!!!しびれた~!!!
ここまで観るだけでも、十分満足。
だけど、話はもちろんそこでは終わらない。最後まで気が抜けません。

ストーリーとしては、彼女がなぜ視力を失ったのか、なぜ叔父さんの家にやっかいになっているのかとか、話に関係のないことは何の説明もされず、ばっさり省略されていて、10番街の殺人の時も思った「みなまで言わんでもわかるやろ」というのがちょっと心地よくなってきて、この監督の撮り方に惚れてしまった自分に気が付きました。犯人がなぜ犯行に及んだかとかの説明も一切ありません。幕切れはあっけない感じもしますが、そこまでの主人公サラの「見えない」ということによって味わう恐怖は、すさまじいものがあります。恋人がいい人でほんとよかった。

間違いなくこれも発掘良品です。