Makiko

東京暮色のMakikoのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
3.6
のっけからいつもの小津映画のバキっとした「作りこみ感」があまり感じられず、おや?と思った。いや、自分は小津映画のそういうところに少し苦手意識を感じていたので、むしろ有難いのだが。

第一声から声が低いので家の場面で最初に出てきた女の人が原節子だと気づかなかった。いつもの発声はいずこへ?と思っていたら、後半に物語が劇的な展開を迎えたところで出てくる。娘→父の関係性や“母親(とみなされる女性)“に対する憎悪の表情など『晩春』を思い出すようなシーンもあり。覆面としての布マスク姿は少し滑稽だった。

有馬稲子の佇まいの魅力が時空を越えている。今の感覚で見てもめちゃくちゃかわいい。監督からの演技指導が強めに入る小津映画にしては小津カラーに染まっていないというか、台詞を言う時にも普段喋っているのと同じような発声で驚いた。よくジャケットで使われているタバコを持ったショットのなんとオシャレなことか。

それでお母さんが山田五十鈴なものだから、画面の重量感がすごい。

とにかく暗い話を暗ーく暗ーく描くので小津安二郎っぽくないなーどっちかって言うと成瀬巳喜男?なんて思ったけど、玄関の場面など、障子戸の中心の枠(ガラス窓)に人物がすっぽり収まるような構図を見ると、やっぱり小津の様式美映画だなと再認識した。

終盤、珍々軒のくだりからの「大丈夫だよー死にゃせんよ」→夜明けと明るい音楽→次女の死とか、駅にとうとう現れない長女とか、ことごとく観客の期待を裏切る重い展開にいささか落ち込まされるが、『小早川家の秋』なんかも死と絶望の話題でエンディングを締め括る話だったなと思い出し、小津作品も晩年になってくるとダークな面が強くなっていったんだろうかなどと考えたり。
これで原節子の小津シャシン出演作で未見なのは残すところ『秋日和』のみとなった。

昨日観た『浮雲』が成瀬っぽくない成瀬作品だったので、偶然「名監督の異色作」続きとなった。
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