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ブリューゲルの動く絵のくりふのレビュー・感想・評価

ブリューゲルの動く絵(2011年製作の映画)
4.0
【十字架より粉ひき】

遊べました。映画ならではって、ひとつにはこういうことだと思います。

が、受信力豊かな方は別として、本作はブリューゲルの「十字架を担うキリスト」を基としているので、その絵を見て、心のどこかに置いておかないとサッパリかもしれませんね。

ポイントは16世紀の群像・風景の中に、キリストの磔刑を混入させた、というパラドクスかと。

THE MILL & THE CROSSという、絵を分析した書が映画化の始まりで、原題(この本、読みたいのですが邦訳出てない…)。そんな生い立ちがあるせいか、いわゆる劇映画として括れません。人物のドラマはきちんと含まれますが。情緒的思索映画、などという方が近いかも。

で、観客が自分と向き合う作品。基となった絵には数多の人々が小さく描かれていますが、その一部に近寄り、止まっただけの人物に時間を与え…つまり人生の一部を与えています。彼らの営みを静かに見つめることになりますが、癒されるのですよこれが。

ブリューゲルの絵は民衆賛歌ですが、それを動かす歓びが静かに伝わります。特に冒頭、一日の始まり。自然と虚構が混在した画が面白くて心に焼き付き、映画のため、数多の自然音から選ばれたろう、朝の音色たちも沁みるのです。

天辺に聳える風車小屋を動かすため、岩山の内側を延々と男が登る、見上げのパースペクティブがすごい。これはハリウッド製品にはない味です。M・バーニー『クレマスター3』、クライスラービルの奇妙な登頂、をふと連想。

人生が始まるので、愛情もあれば無情もある。中でも対置される二つの処刑、これらが基の絵の続き、膨らみとして、示唆的でなかなか興味深いのです。

…と、いろいろ書いてみたのですが、かなり内容に踏み込んでしまったため、二つに分け、処刑から感じたことは別で投稿することにしました。

要は、神への盲信について、本作では問うていると思ったんですね。そして、神より生活、とでもいうようなエンディングが、ああ民衆賛歌だな、と清々しく思えて、とても気持ちよく、劇場を後にしたのでした。

この企画は面白いので、次は「悪女フリート」あたりが動くといいな。デビルマンチックなカオスバトルが映像で見られるだろうし、現代の女性映画として、意外と面白いものに仕上がりそうな気がします。

<2012.1.23記>
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