ノットステア

たそがれ清兵衛のノットステアのレビュー・感想・評価

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
4.7
○感想
高校生の頃に一度観て、2022.09.08に改めて観てみた。
決闘シーンは忘れていなかったが、ともえとの結末などは忘れていた。

時代考証。明るさ。リアリティ。素晴らしい映画。

最初から途中まで、静かに人物描写ばかり。特に事件などがあるわけではない。なのに魅入ってしまう。細部まで丁寧に作られているからか。
例えば、黒澤明『椿三十郎』なんかだと最初から緊張感がありつつ椿三十郎の余裕さとカッコよさが前面に出ている感じ。白黒映画なのに椿のシーンなど華やかさもある。だけど、『たそがれ清兵衛』は不幸の多い、風呂にも入らない不潔な、耐え忍ぶ武士って感じ。華やかさはまるでない。なのに、魅入ってしまうし、カッコいい。一つ一つの所作が魅力的なのかな。
まず原作が素晴らしいし、その魅力を失っていない。

かっこよくて渋くて静かで丁寧で切ない。
周りからは不運な男だったと思われているが、自分ではそうは思っていないだろう。
見どころ:たった一つの欲は叶うのか。



○好きなセリフやシーン

・たそがれ清兵衛と娘の萱野の会話
針仕事習って上手になれば、いつかは着物や浴衣が縫えるようになるだろ?
だば、学問したら何の役立つんだろ?

うん。学問は針仕事のようには役立たねぇかものぉ。うーん。良いか?萱野。学問しえば、自分の頭でもの考えることできるようになる。考える力がつく。この先、世の中どう変わっても、考える力持っていれば、なんとかして生きていくことができる。これはおとっこもおなっこも同じだ。わかるか。


・たそがれ清兵衛と幼なじみの会話
お主ほどの人間がこげだ田舎でうろうろしてる時ではねぇ。

かいかぶりだ。おれは、それほどの人間ではねぇ。

しかし天下は変わるんだぞ。

そんときは、おれは侍やめて百姓なる。畑仕事はおれさ合ってる。

変わったやつだのぉ。おめぇは。ま、昔からだどもなぁ。まるで欲ってもんがねぇ。


・ともえが家に初めて来たとき、動揺した清兵衛。
足袋を脱ぎ忘れて家に上がろうとする。
部屋の中で会話してるときも動揺していることがわかる。
ともえさんが、連れの人に「お鍋見て」と言い、連れの奥にいる清兵衛には視線がそんなに集まるわけでもないのに、動揺した演技がさり気なくある。清兵衛汗をかく。額を拭こうとして懐から取り出したのは足袋。手ぬぐいと間違えてる。


・ともえの元夫、こうだとの決闘
一番好きなシーン。清兵衛かっこよすぎる。ただ、その決闘当日の朝食のシーンも好き。
茶碗などを洗剤で洗うわけではないからどうやって綺麗にするかってことも分かるんだけど。
茶碗のお米を平らげる→お湯を入れ、たくあんで茶碗についた米を綺麗にしながら食べる。なんか、なぜか美味しそうだし、静かだし。好き。ごちそうではないけど、食材を無駄にしない、丁寧な食事って感じ。

こうだとの決闘前。木刀の素振り。ここがもしかしたら一番かっこいいかもしれない。
私闘は厳禁。だから棒きれで戦う。それなら死人は出ない。負ける気はしていない。


・最後の死闘。前日の夜
果たし合いを命じられる。

"真剣の勝負は、人の命を奪うっていうことは、獣のような猛々しさと命を平然と捨てうる冷酷さがなくてはならねぇ。"

帰宅後(その夜)刀を研ぐ。いつもとは別人のような、不気味さ。刀を振り、失った剣への志、獣のような猛々しさを取り戻そうとする。

上司には、これで会うのは最期かもしれないと、別れを告げたが、娘二人には話していなかった。


・果たし合い前、ともえとの会話
先日、兄上からあなたを私の嫁にっていう申し出があったのを私はお断りしました。そのことはお聞きでがんしょか。

存じております。

だども、だどもあの日から、兄上のお申し出を断ったあの日から、私はあなたを想うようになりました。思えば、おさねぇ頃から、ちっちぇえ人形差し上げた頃から、あなたを嫁に迎えることは私の夢でがんした。その夢は私が妻をめとっても、あなたがこうだに嫁いでも、いささかも色褪せたことはありますねぇ。これから、私は果たし合いに参ります。必ず打ち勝ってこのうちに戻ってきます。その時、私があなたに嫁に来ていただくようお頼みしたら、受けていただけるでがんしょか。

数日前、縁談がありました。会津の御家中でがんす。あたし、お受けしました。

とても失礼しました。こげたことをお願いしては悪かったんでがんすの。

いいえ。呼んでいただいて、嬉しゅうございました。

私が馬鹿でがんした。今申し上げたことはどうか、忘れてくんなへぇ。ですかぁ。会津の御家中。さぞ、こり御縁でがんしょうの。
お迎えきたか。

へい。

しば、行きます。今日は、ありがとがんした。

あの。あたしは、ここでお帰りをお待ちできましねども、どうか、どうかご無事で。ご武運を、心から、お祈りしています。

(礼→外へ)

なおた、ともえさんお帰りのときはお送りしぇえよ。

へい

娘がた頼むの。

※欲のない男。侍。彼がたった一つ欲を示したものの、願いは叶わない。遅かった。でも、丁寧に優しく強い男は崩れない。辛さは伝わってくるものの、素振りにはあまり出さない。静かに耐える。


・清兵衛が果たし合いに向かってから
おばばさま。今日はご機嫌いかがでがんすか?

ありがとうがんす。あんたはんはどちらさんのお嬢様でがんしたがの?

はい。わたくしは清兵衛さんの幼なじみのともえでがんす。
※このセリフで涙を流す。


・果たし合い
相手の余吾との話し合い。
共に妻を病で亡くした。余吾は娘も亡くした。娘のために身分違いの葬式をさせてくれた主への忠誠。主が後継者争いで負けたため、切腹を命ぜられた。なぜだ。なぜこうなった。逃してくれ。浪人の多い時代だ。それに紛れる。
清兵衛も話す。妻の葬式のために刀を売った。今持っているのは竹光。この発言がいけなかった。余吾は怒る。それでオレと戦うつもりか?清兵衛は小太刀の使い手。小太刀で戦おうとしたことにも怒る。

果たし合いのシーンは家の中。隙間から二人の争う姿が見える。
余吾は立てこもり、他の刺客をすでに殺している。刃こぼれもあるだろう。刀を使った戦いだが、一瞬では終わらなくても違和感なかった。扉や壁が邪魔して致命傷にはなかなかならない。
決着もいい。家の中ならではの決着。
清兵衛が左腕と左脚に傷を負う。急にフラフラしすぎる気もするが、出血と緊張などで周りがあまり見えない感じもリアルか。


・ともえたちとと寄り添う生活は3年ほど。
明治維新。戊辰戦争。賊軍として、官軍の鉄砲で散る。