眼鏡の錬金術師

たそがれ清兵衛の眼鏡の錬金術師のネタバレレビュー・内容・結末

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

数ある時代劇映画の中でも最も好きな作品。

日本が生んだ素晴らしいヒューマンドラマ。堂々と世界に送り出すことのできる作品だと思った。

時代は幕末。身なりも汚く、人付き合いも避け、ただストイックに家族を支えるため働く孤高のお父さん、井口清兵衛の生き様を描く。
安月給な上、妻を亡くして家には小さな子2人と認知症の母。端から見れば決して恵まれた環境とは言えないが、それでもそこに小さな幸せを感じ、それを守るため命を懸けた戦いに出向く姿がかっこいい。いわばこれは父子家庭のサラリーマンの奮闘を描いている。

好きでもない男と結婚しなければいけなかったり、上から人を斬れと言われれば斬らねばならない、この時代の切なさ、やるせなさを感じずにはいられない。

そしてなんといっても子役二人が素晴らしい。本当に健気でかわいらしく、この二人がいたからこそ、清兵衛の苦悩が引き立ったと言えるでしょう。

また、清兵衛が仕合いに向かうまでの準備も丁寧に描かれ、ただのお父さんが人斬りになっていくのが分かりやすく表現されていて良かった。

認知症の母に「あんたはどこのお嬢さんですか?」と聞かれたときの宮沢りえが涙しながらも名乗るシーンは泣けた。

時代に翻弄された似た者同士の語りからの室内殺陣も緊張感があって良かった。最後の死に様も芸術的であった。

とにかく一つひとつの演出が丁寧でほとんど悪いところが見当たらない傑作。
ナレーションはもしかしたらいらなかったかもしれないが。陽水が沁みた。