三樹夫

この子の七つのお祝にの三樹夫のレビュー・感想・評価

この子の七つのお祝に(1982年製作の映画)
3.8
「あなたは温かいミルク」
「お゛か゛あ゛さ゛ーん゛、お゛か゛あ゛さ゛ーん゛」
松竹と組んだ角川映画で、この映画は岸田今日子の娘への英才怨念教育から始まる。自分を捨てた夫のことをうっとり顔で話しながらも、写真の夫の顔に針をブスブス刺すのが怖い。愛憎入り混じった岸田今日子が怖い。
そして現代へと時間が流れ、あるマンションで無職の28歳女が殺される。この女はある議員秘書の元女中だったが、この議員秘書村井国夫は大蔵大臣の頭脳と称されており、また議員秘書の内縁の妻は手相占いをしており、よく当たることから政財界の大物が押しかけ、政財界に裏から影響を与える影の黒幕ともされていた。この時点で漫画かみたいなハッタリをかましてくるが、この映画のハッタリはこんなもんじゃなかった。
この事件の裏側をルポライターの杉浦直樹と新聞記者の根津甚八が調べるが、バーのママの岩下志麻と杉浦直樹のロマンスがどうにもタルい。っていうか杉浦直樹の奇病設定は一体何?この映画は全体的にメチャクチャなのを安定した演技力の役者を取り揃えて演じることで何とか成立している歪な作品になっている。そもそも犯人が誰か簡単に分かるし。ただ岩下志麻と杉浦直樹のロマンスでは、「あなたは温かいミルク」ととんでもないパワーフレーズぶち込んできて声出して笑った。この映画は展開や台詞がエキセントリック過ぎて定期的に爆笑する時間がやってくる。「お゛か゛あ゛さ゛ーん゛(血ブシャー)、お゛か゛あ゛さ゛ーん゛(血ブシャー)」なんてエキセントリックの極致に達していた。
全体的にメチャクチャというか、説明台詞も冗長な場面も多いしはっきり言うとかなりダメ寄りの作品だが、エキセントリックな展開と台詞に演出で全く嫌いになれないというかむしろ好きになる。岸田今日子が狂ったという演出で大根と豆腐に大量に針を刺していたのが一番爆笑した。
岩下志麻と岸田今日子という怖い人2人をぶち込んでいるが、もはや岩下死魔と岸田狂子といった感じに2人が怖い人の役をもの凄い頑張っている。ハチャメチャな展開の中でエキセントリックさが噴出し、そんな中でもの凄い頑張る岩下志麻と岸田今日子が、その頑張っている様ゆえに余計に可愛く思えるというアイドル映画だ。というか薬師丸ひろ子や原田知世を主演にやっている角川のアイドル映画の作り方まんまの作品となっている。

どう考えても『サイコ』を元ネタにしているだろうというのが感じられ、岸田今日子が全てを掌握する凶悪な毒親を熱演。「陰気な私より、明るいみやこさんの方がいいんでしょ」と陰気さ爆裂の演技で観る者の心を奪い、実は出演時間そんなに無いのに全てを掻っ攫っていくというレクター博士みたいなことになっている。岸田今日子マニアにとってはマストの作品というか、岸田今日子のアイドル性がこれでもかと溢れていた。もはや『魔太郎がくる!!』みたいなことやってたな。
岩下志麻はある時期以降からの怖い人路線をこの映画でも踏襲しているが、元々お嬢様女優だけあってどこか上品さが漂い100%怖い人と思えない役柄となっていて、それ故に憐憫の気持ちも誘われる役となっている。
岩下志麻と岸田今日子でアイドル映画を作ってくるとはさすが角川映画と思う。なぜ岩下志麻と杉浦直樹のロマンス?と思ったが、杉浦直樹は父親的な意味合いもあっての中年オヤジ感ある年上の役者がキャスティングされたのだろう。また角川映画でよくあるヒロインと中年オヤジのロマンスという角川春樹の願望がここでもダダ洩れしていると見ることもできる。
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