半兵衛

関東無宿の半兵衛のレビュー・感想・評価

関東無宿(1963年製作の映画)
3.0
ストーリーは単なるメロドラマ風任侠映画なんだけれど、変な間のある編集や重要な人物を声だけ登場させるなど歌舞いた映像表現が随所であらわれて摩訶不思議な鈴木清順ワールドとなって妙な面白さを醸し出す。でもそうした演出がドラマとあまり絡んでいないので変なことをやってみました以上の効果が出ていないことになっているのも事実で、こうしたハッタリとドラマの結実は後年の傑作群まで待たなければならない。

それでも乱闘からの赤い空に切り替わる大胆不敵な演出は清順演出や木村威夫の美術などが決まっていて、ここだけでもこの作品を見られた価値はある。

主人公である小林旭は任侠道を守り通す渡世人の見本みたいな男なのだが、そんな彼に歌舞伎みたいなメイクを施したり序盤女子高生たちがやくざをバカにする発言をしたりすることでそんな小林旭の存在が古くさいカビの生えた美術品みたいにしてしまう。そしてそれが決定的になるのがラスト、任侠道などこの世には無いことが明白になりそれでも男の美学を貫こうとする小林旭の滑稽さ。そうした遊戯的にやくざを嘲笑う監督の視点は、一見軽薄そうに見えて太平洋戦争時の体験から来る醒めた死生観が感じられてゾッとする。

小林旭の親分を珍しく殿山泰司が演じるが、案の定情けないやくざだった。そしてこの手の作品では珍しい伊藤雄之助(本人はやくざ映画が嫌いだったらしく、任侠映画はこれと東映の一本、『ああ爆弾』ぐらいしか出ていない)がイカサマ賭博師をクールに好演して印象に残る。

気になるのはメインヒロインの松原智恵子の存在感が薄くて(でも可愛い)、サブヒロインであるはずの中原早苗(セーラー服は全く似合っていない)が物語の中心人物のようになっている変な構成になっていること。実は原作となる作品では松原智恵子の役柄は存在せず、当初は中原の役を松原が演じるはずだったのだが彼女では色気のある役は難しいということで新たに登場人物を設定して配役を変更したそう。確かに男に騙されて売り飛ばされてもしたたかに生きていく役柄は純情キャラを売りにしていた松原では難しいので仕方がないのかも。

それにしても野呂圭介はクズみたいな役柄なのに、清順演出とはまっているので妙に可愛げのあるキャラクターになっているのが可笑しい。
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