Keigo

陽炎座のKeigoのレビュー・感想・評価

陽炎座(1981年製作の映画)
4.8
鈴木清順二作品目!
『ツィゴイネルワイゼン』のコメント欄にて、bennoさんより浪漫三部作の他二作も是非とオススメいただいていた本作。

『ツィゴイネルワイゼン』で耐性が出来たのか、鈴木清順初体験に比べれば(良くも悪くも?)若干落ち着いて観ることが出来た。

『ツィゴイネルワイゼン』とは全く別物だけど、テイストというかスタイルは踏襲されているので『ツィゴイネルワイゼン』が好きな人は『陽炎座』も好きだろうし、その逆もまた然りだと思う。

エキセントリックでエキゾチックでサイケデリック。ビビッドな日本的センスの横溢。日本人の自分が観てもそう思うんだから、海外の人から観れば余計にそう感じるだろうと思う。そこにあるのは間違いなく日本的なセンスだと思う一方で、鈴木清順には日本人離れしたセンスがあるようにも思えるから不思議だ。

今作に関しても『ツィゴイネルワイゼン』同様、一見しただけで整合性の取れたストーリーや台詞の意味、メタファーや構造について理解出来たかと言えば、ほとんど理解出来ていないと思う。それらが観ただけで理解出来る人は素晴らしいと思うし、すぐには分からずともあれこれ参照しながらそれらを見出そうとするのも良し、分からないからつまらないと切り捨てるのもまた、個人の自由だろうと思う。ただ個人的には、自分も含めて正直何が何だかよく分からないという人が大半なのではないかと思う。

鈴木清順の作品(まだ二作しか観てないけど)を観ている時はたしかに“映画”を観ていることは間違いないけれど、慣れ親しんだ映画的な文法からはかなり逸脱していて、個人的な感覚としては絵や写真を観ているような感覚に近いと感じる。美術館や個展に行って絵を順番に眺めたり、写真集のページをめくって写真を眺めるような感覚。その連なりから明確な意味は受け取れずとも、情念、怨念、夢幻、頽廃、性愛、生死、表裏などの漠然としたイメージは感じ取る事が出来る。

ストーリーや描かれること全てに意味を求めずともそれらのイメージを漠然とでも感じながら、何よりそこに美しさを感じるかどうか。鈴木清順の美意識や様式美に共感出来るか否か。そこが好き嫌いの分かれ目なのではないかと思う。

自分はそこに美しさを感じたけれど、そう感じない人がいることももろん理解出来るし、そもそもあまり映画を観ていなかった頃の自分なら、美を感じる感じない以前の段階で諦めていたかもしれない。映画はストーリーを映像で語るものだと思っていたから。

何が言いたいのか自分でも分からなくなりつつあるけど、とにかく自分は映画に限らず、そういう芸術作品の方が好きなんだと思う。作品の善し悪しの基準が、より個人の感性に還元されるものの方が。だからこそより微細な美しさや趣も感受出来るような感性を、磨き続けたいと思う。


松田優作が喋って動いているのを初めてちゃんと観たから、いわゆる松田優作らしい大立ち回りを知らない自分は、違和感も感じなければ新鮮さも感じなかった。ただ存在感として、その佇まいとしては作品とすごくマッチしていたと思うし、独特の味がある俳優だということが実感出来た。

『ツィゴイネルワイゼン』よりスコアは0.1低いけど、正直ほとんど差は無いと言っていいぐらいで甲乙つけ難し。ケリー・ライカートといいイ・チャンドンといい鈴木清順といい…ここ最近ハイスコアの連発で、自分のスコアの基準がガバガバになっているような気がして仕方がない。

何はともあれ、今作も大傑作でござんした!
Keigo

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