B姐さん

悪魔を見たのB姐さんのネタバレレビュー・内容・結末

悪魔を見た(2010年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

「復讐」のゴアシーンはなかなかで、アクションもいいし、撮影も悪くないし、演者も達者だし、悲惨な目にあう女の子たちも可愛い、エロ要素もちゃんといれてる。これでもかと言わんばかりの「全部のせ」映画なのに恐ろしくモヤモヤするのは、演出なのか脚本が惜しいってことかもしれぬ、むむむむむ。

タクシー乗ったら何故か偶然強盗も一緒に乗ってる、とか。一家(義父、妻の妹)が襲われる間際に、わざわざチェ・ミンシクが電話をかけてそれを匂わしているのにイ・ビョンホンはなんですぐに「危ないぞ」って電話しないんだ、おいおいタイミングが遅いぞ!、とか。ラストで「完全な復讐」をする時に、家族を捨てたミンシクの母親はともかく仲の悪い父親と息子も現場にくるってどーいうことだ?それならそういう家族のつながりのシーンが必要だったんじゃないの(家族のつながりが強いお国柄という見方もできるが)まあ、「家族の恨みは家族で晴らす」(“首チョンパつながり”っていうアイデアはすごい)ってのはわかるけどさあ、とか。「韓国映画あるある」の警察の手際が悪く相変わらず無能、とか。
いやいやそんなことより問題なのは、テーマがぼやけて見えるってことで。

国家情報院捜査官の男が婚約者を惨殺されたことにより、自分も「怪物」(悪魔)と化してしまうって話じゃなかったんでしたっけ?おのれの悪魔と対峙してしまった、と。だから「悪魔を見た」なんですよね?
婚約者の妹や義父の説得を無視して、ノンストップで「復讐」マシーンと化すのはいい。でもラストで「完全なる復讐」を実行した後に「泣く」って芝居はないんじゃないか。だって「ああ、俺もあいつと同じ怪物だあ」ってことで簡単に「泣き」はしないだろう。絶望するんじゃないの?放心状態になるとか。あの場面で「泣く」芝居を見ると、単に「むなしさ」とか「やるせなさ」とか「復讐できたけど、カミさんはもう戻ってこない」みたいな「悲しさ」を抱いているようにしか見えない。
そこには「善悪の彼岸」を超えてしまった男の表情は読み取れない。いろんな感情の爆発(吐露)だってことで演出し、監督は観客にもそれを感じてほしいと思っているかもしれないが、そりゃあ無理っす。まあ韓国人はストレートな感情表現をする民族ってこともあるかもしれないが。
いや、まてよ。オイラが全部勘違いしていて、単なるゴアな「復讐劇」だったかもしれない。悪魔は単にチェ・ミンシクでしたってことだけかもしれん。

それにしてもミンシクおじさんはすごい。完全に脂ぎった肉食系下衆の極みのような「ジョーカー」を演じている。サッカーのユニフォームを着て病院で治療を受けるシークエンスはスリラーとコメディのスリリングな綱渡りを見せる。ミンスク・イン・ザ・ハウス。とにかく全編ミンスク・オン・ステージだ。相手役がイケメン枠でウォン・ビン、渋さ枠でソン・ガンホ、無難枠でハ・ジョンウだったらと思わずにいられない。イ・ビョンホンではこの怪物は倒せない。
イ・ビョンホンには、アクションと残酷な拷問芝居しか「見せ場」がない(それで十分かもしれないけど)。葛藤とか逡巡とか、微妙なニュアンスが全くない。そういった芝居をさせてもらえない。

だから葬式でもラストでも、彼は簡単に泣いてしまうのだ。

DVD(4/24/2015)

*お気に入りシーン
 「なぜかタクシー強盗と鉢合わせシーン」もいいが、
  やっぱり「アイスピックがスポッ」がいい。
B姐さん

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