リンドウの花が咲きこぼれる_。
ひろしの母が死んだ。夫と一緒になったことで夢を捨てた母。その人生を三男のひろしだけが、不幸せであったと同情し、それを強いた父に鬱積した感情を抱く。
それが前半。
帝釈天の門前の間近に喫茶店をオープンした貴子は夫と死別。女手ひとつで小学生の息子を育ててきた。でも気丈に見えて、やはり世間の風は冷たい。そんな彼女に惚れた寅さんは一肌脱ごうと思うも、今回はお金。チンケな売で贈れるのはせいぜいリンドウの花鉢くらい。腕の一本くらいはと息巻くものの、無論貴子は断る。でもその心根のやさしさに貴子は感涙する。みんな放り出して寅さんと一緒に旅に出たいと笑顔を見せる彼女に、淋しげな微笑を浮かべて、寅さんはこっそり立ち去る。
結局寅さんはわかっているのだ。自分が到底彼女にふさわしくない男であると。いくら息子と遊んであげることはできても、自分では彼女を幸せにできないことを。
さすがの脚本。ひろしの親の話と貞子の話がうまくリンクしている。もちろん、その間を行き来する寅さんがあってのこと。
そして今作、いちばんのお気に入りシーンは、おいちゃんとひろしの父が居間で会話するところ。特に寅さんのリンドウの話を揶揄するところは爆笑もの。
ふと思うんですけど、寅さんって、「トリックスター」なのではないでしょうか。