針

アルファヴィルの針のレビュー・感想・評価

アルファヴィル(1965年製作の映画)
3.8
●「元気です ありがとう どういたしまして」

●ゴダール監督による一風変わったSF映画。この人にはもうストレートなエンタメ物語みたいなものは全然期待してなくて😊、一般的・従来的な映画の作法みたいなものをいろんな角度からずらしていく、映画遊戯の人みたいなイメージで観てます。これもガッチリSF巨編を期待するとまったく満たされないのですが😁、変てこ映画として観るとちょびちょびおもしろいところあり。

●舞台は「α都市(アルファヴィル)」という名の未来都市。どうやらここは「α60」という名の超巨大なコンピューターだか人工知能だかによってすべてが統括されているハイテク都市っぽいんだけど、それは機械によって人間が支配されているディストピアでもある模様。主人公はそんなアルファヴィルにやってきたレミー。彼は何らかの使命を帯びた工作員で、アンナ・カリーナ演じるナターシャと出会ったところからふたりのドラマが動き出す……。

●SFの世界観の作り方が、なんか肝心なところでヘン……というのが第一印象? 一応見るからに(?)SFな要素はたくさん詰め込まれてはいます。耳障りなピーピー電子音。白黒画面内での光の明滅。古めかしいデザインの電子機器。ナレーションのようにあらゆる場面に偏在し、茶々を入れてくる「α60」のモゴモゴ解説とか。あとは主人公がアンナ・カリーナや「α60」と交わす哲学的で抽象的なセリフ群とかもかなー。山場でのネガポジ反転ショットとかも一応含められるか。そうして大仰すぎるしデカすぎるBGM♪が全体の空気感をごくふつうの日常から遊離させてる、気はする。
けど、そうしたもろもろで彩られた画面内の風景は、未来都市じゃなくて結局単なる現代のパリじゃね? というのがあって、ホテルの部屋の感じとか車で流す街の景色とかは、ふつうの欧米圏の都市そのまんまなのよね。
そのへんが何を狙ったものなのか自分には分からないのですが、「これは未来都市だ!!!」と言い切るための下地を一応作ったうえで、「未来都市だと言ったら未来都市なんだ!!!」で押し切ってる映画、みたいなもんなのかなぁとちょっと思ったり……。

●どっかでちらっとそういう批評を読んだ記憶があるんだけど、SFなのに映像内の世界観を作り込まず、全然説得力を出す気がないという逆転の発想はちょっとだけ面白いと思いました(これをマジの未来都市として作ってたのならゴダールさんごめんなさいですが……🙏)。同じくフランス映画の、これも未来のディストピアをモノクロの静止画のスライドで描いた『ラ・ジュテ』とちょっと似た感触がするとも思ったり。カラー映画は作られた時代を文字通り色濃く刻印するけど、逆にモノクロは強引に時代を超越する……みたいな詭弁を思いついたりもしましたが……。

●以下勝手なお話。SFっていうジャンルって、未来とか宇宙を舞台にしても、核に置かれるテーマやストーリーは結局現代のものじゃないですか? なぜなら本当の未来(宇宙)のお話なんか現代人が観ても自分たちの物語じゃないから感情移入できないし、大して意味もないからなんですけど。んでこれを観ると、現代の何らかのテーマを極端な形で描くために舞台を未来に設定しているっていう、未来SFの恣意性みたいなものを開けっぴろげにされるような感じはしました。SFジャンルの思考実験性が剥き出しにされるような、ややメタな感覚? どっちみち世界観に没入させてくれないSFというのはいかにもこの人らしくて、ゆえにストレートに楽しかぁない🤗 でも作中でいろんな人が、「未来もない過去もない、ここには現代しかない」みたいなことを繰り返し言ってるのはそういうことなのかも、と勝手に思ったり。

●序盤でチャンドラーを読んだりしてる主役のレミーは、その風体も中折れ帽にトレンチコート、内ポケットには拳銃を仕込み、ほどよく苦み走った渋い中年男。まるで絵に描いたようなハードボイルド主人公! 彼は堅物な「α60」を煙に巻くような知的で純情(?)なところもあるんだけど基本的には粗暴で、議論より荒事が性に合ってるタイプ。バンバンバンバン銃を撃っちゃうところが一番楽しかったところかなー。

●「α60」は自身に都合のよくない=人間らしい言葉を概念ごと消し去ってるらしくてそのへんは『1984年』とかっぽい。そうした人間らしさを毀損するディストピアに対して「愛」を対置して一矢報いるタイプの、ある意味王道のSFメロドラマって感じのストーリーなのかなーと思いました。
影響があるのかどうか知らないけど、リドリー・スコットの『ブレードランナー』のメインストーリー(脱走したレプリカントの葛藤じゃなくて、デッカードとレイチェルの恋愛譚のほうね)は『アルファヴィル』とかなり似てるなーと思いました。未来世界で「愛」を通して人間賛歌を謳う”おとぎ話”なところが特に。これまた個人的な感想ながら、『ブレラン』って未来世界の映像的な迫力が超最高な分、それとの落差でストーリーはあんまりにもベタすぎて物足りない……と思っちゃうのですが、『アルファヴィル』の場合は世界観表現がなんかガタガタ🫨だからこれぐらいの期待できないベタなストーリーはむしろちょうどいいかも……みたいなヘンな感想を抱いたり。

●その他
・若い女性が何人も登場するけど全員ホテルで男性宿泊客の身の回りの世話と、おそらく夜の相手をする仕事をしていて、それがもっともポピュラーな職業らしいのがひどい。『ソイレント・グリーン』とちょっと似てる。
・博士の名前が「フォン・ブラウン」でした。
・世界の構造もなんかよく分からない。アルファヴィルは銀河帝国の首都だと言ってた気がするけど、主人公が出発した別の国は同じ地球にあるらしい。んでもって、えんえん車を飛ばせばそっちの別の国にも辿りつけちゃうらしい。銀河とは?

●でも何作か観ていくと、ゴダールがいわゆるシネフィル(映画というものを観飽きた人たち?)や映画製作者(まだここにない表現を自分で形にしたい人たち?)のアイドルだったというのはちょっと分かる気がする……。

●「元気です ありがとう どういたしまして」
針