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太陽を盗んだ男のAZのレビュー・感想・評価

太陽を盗んだ男(1979年製作の映画)
3.8
ものすごいエネルギーに満ちた作品だった。今じゃ実現不可能な撮影シーンの数々。沢田研二の体たらくで緩い教師の姿から徐々に鬱屈していく様子。それに対抗する菅原文太の佇まい。ところどころそれは無茶だろと思うシーンはあるが、許せてしまうのはシリアスな中にもコミカルさがあるあから。そのバランス感覚が良い。原爆を作ったことで死に向かっていく城戸誠だが、生に必死でしがみつく姿も描かれる。その矛盾した姿。信念なんてものはない。ただ、何かを成し得たかったのだろう。なんとなくぼんやりとした社会に対する不満。それは過激なものではなくごく日常的なもの。そして、科学に対する好奇心が彼をそうさせた。

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いきなりバスジャックが起き面を食らう。あまりにも出来事がつながり過ぎてしまわないかと思ったが、結果的に必要なシーン・出来事であった。バスジャック犯と山下警部の掛け合いにより、城戸に何かを芽生えさせる。そこから日常の風景が変わって見えてくる。

原爆を作り警察を脅す彼だが、要求するものは過激なものではない。野球中継の延長やローリング・ストーンズの来日公演の要求。政治的なものは一切絡んでこない。何気ない日常の中にある些細な不満だからこそ、どこか彼に感情移入してしまう。そして、最後の主張が響いてくる。この国は腐り切っていると。日常の不満と日本国への不満は突飛なようで、実は地続きなのではないだろうか。

社会の構造をすんなりと受け入れてしまう麻痺した日本人の感覚に、喝をいれてくれる強烈な作品だった。

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これどうやって撮影したのといったシーンがたくさん。調べると捕まる覚悟でゲリラ的に無許可で撮影したシーンばかりだという。すごい。

原爆を作ることで被爆した城戸が、徐々に体がボロボロになっていく姿は静かで恐ろしい描写だった。彼の気持ちははわからないようでわかるような気がする。誰でも何かわからず、とにかくむしゃくしゃしてしまう状況に陥ったことがあるだろう。日々の不満の積み重なりが、何かを増幅させる。現代人にこそより多くそういう人が存在しているのではないだろうか。今でいう無敵の人。

印象的なシーンばかりだが、最後の山下警部との掛け合いがやはりすごかった。菅原文太の演技の迫力。それだけで見る価値がある。

プルトニウムを盗むシーンや、原爆を取り返すシーン、カーチェイスシーンなどちょっと都合良すぎと思いつつ、エネルギーでゴリ押しされてしまった。この時代は熱い日本の監督がいたのだなぁ。

個人的に原爆を作るシーンが丁寧で、ものづくりを生業としている自分としてはときめいた。

エンドクレジットで森達也と出てきたけど、まさか関わってたとは。
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