わかうみたろう

太陽を盗んだ男のわかうみたろうのネタバレレビュー・内容・結末

太陽を盗んだ男(1979年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

沢田研二は演技が自由でいい。

自分が観てきた中では、この時代の作品としては一番好きかもしれない。

 
沢田研二演じる原爆をつくる化学教師の子供っぽさの演出がずっと面白く、ただ明るいだけじゃない虚無を底に秘める人物にしているのが胸を打った。学校の校庭で生徒たちがあそぶ中で1人壁とキャッチボールしたり、フェンスに勢いよく登ったり、序盤から型破りな行動を取っている姿と授業中つまらなそうな表情には大きなギャップがあるが、そのギャップにこそ人を魅了する部分がある。警察にターザンロープを使って侵入するアクロバティックさが物語の展開としてアリになっているのは、はなっから化学教師を普通の人でないと設定させてるからだろう。

 どうやってターザンロープ垂らしたんだとか、ビルの何階に侵入するんだとか疑問は探そうと思えばいくらでも探せるがそれを無視して演出している点に好感を持つ。原子力爆弾を蹴って遊んでる幼稚さを、ただ馬鹿な奴ってだけでなく、化学教師も自分で時折爆弾を爆発させてしまいそうになってハッと驚く表情を映すことで、緊張感を持った表現を出来ているのが凄い。落ちそうになる爆弾を飛び込んで止めるカットはカメラと沢田研二の動きが一体となって画面を構成していた。

 
 幼稚な化学教師を通して、暗に日本も核兵器を所有してるようなものであり、しかも所有者である日本は爆弾は愚か自分自身をコントロールできない子どもであるといつ図式を表しているにも関わらず政治臭さがしつこく無いエンターテイメントになっている。その当時の、現在の日本を撮る、という点に拘っているのは沢田研二登用だけでない要素にも表れてる。渋谷でお札をバラまく、首都高カーアクションのシーンも見ていてワクワクしてきて、どうやって撮影したのか気になる。武道館でライブをやると嘘の情報を流されていたローリング・ストーンズの名前を使うことは許可が必要だったのか。


 また、サラッとしていたが化学教師が前半でバスジャック犯から1人釈放されたのに何でまた菅原文太演じる引き留め役の警察官と一緒にバスに戻るのか。このシーンを観たときは、化学教師はただ面白そうだから警察とバスに戻ることに決めたのかと、この男の底なしの欲望を、つまりは楽しければ良いという空虚さを描いてるのかと感じたが果たしてどういう気持ちでバスに戻ったのだろうか。刺激を求めるあまり自分の要求(本当の欲望)が分からない滑稽さは、物語が進み化学教師の心の穴の深さを覗いていくにつれて笑えなくなってくる。