わかうみたろう

ニックス・ムービー/水上の稲妻のわかうみたろうのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

 メタ視点が複雑である一方で、何を写し取るためにこんな複雑な構造にしてるのかラストまではわからなかった。ただ、椅子から転げ落ちる役者(?)の演技とか、絶対NGだろみたいなカットを入れている独特のリズム感に徐々に引かれていく。船の上をぐるぐる回る無人のカメラは何も写し取ってないように見えるし、カメラの存在が滑稽なものとして見えた。ニコラス・レイもヴィム・ヴェンダースも面白半分で撮っている一方で、それは目的も意味も何もない死という出来事に、編集することで意味を持たざるを得ない映画が作り出してきた構造に抗うことで、おそらく近いであろうニコラス・レイの死と向き合っているようにも見える不思議な作品であった。

 驚いたのは、ラストカットで、葬式などの場面をあえて映さず、ニコラス・レイの死を捉えたところ。撮影クルーはニコラス・レイに密着してたはずだから撮影も計画できたはずだが、葬式などは一切とらず、船の中にみんなで話し、マッチの火であっさりと弔いを上げる。マッチの火が消えてしまうことを惜しむように、炭になった部分を持ち丸々一本マッチが燃えきるまで撮影クルーは火を捉える。そこで、ニコラス・レイはもう居なくなったんだ、と思ったけど、なんで死んだという描写が直接描かれていないのに、ニコラス・レイが死んだということがすんなり体に入ってきたのだろうか。クライマックスを写そうとしないでカメラを回し続けてきたことがニコラス・レイの死を映し出したのだろうけど、何故だかはよくわからない、不思議な映画であった。普通は人の死は中々受け入れられないけど、この作品の中では、死んでもニコラス・レイがどこかに居るような感覚も生まれた。