弁士の言葉に耳を傾けつつ画面を見ているとサイレントである事を忘れてしまう。もしも、トーキー映画がこの世に存在していなかったならば佳作と言える作品なのかもしれないが、サイレント映画ならではのアクション等を期待していくと裏切られる。
これを見れば当時の日本のサイレント映画の技術水準の高さには舌を巻くのだが、ここまで出来るのなら、アフレコで音声つけて見た方が良いのでは?と思ってしまう様な出来だ。もしも、登場しているキャストの声がついている版が存在するのなら、むしろそちらを見てみたい。
ハリウッド映画が好きだったらしい小津などの無声映画はサイレントならではの動きの楽しさがあるのだけれど、この映画の動きは舞台の延長線上でよりシャープな動きを映像にしました、という感じなので、テンポの良い普通の時代劇以上でも以下でもない。
内容はと言えば、当時の世相を反映したのだろうか、これでもかという暗い内容で、女性キャストのいじらしさに胸を打たれはするものの、主人公の次郎吉を含め、男性の登場人物はことごとく冷血で正直辟易する。
船の中での出会いのシーンやラストシーンは見応えはあったものの、物語や出演者に興味を引かれないのなら、映画史的な価値しかほぼないと思うので、業界関係者以外がわざわざ見に行くほどのことはなさそう。とくに、女性には勧めにくい作品です。
(サイレントである必要は多分ない 2012/8/3記)