磯野マグロ

ホープさん サラリーマン虎の巻の磯野マグロのレビュー・感想・評価

3.6
【しまいにゃクビよ】142

三木鶏郎ファンとして、「ホープさん」の歌が映画で聴けたのは単純にうれしい。ただ全編、同曲のアレンジ、変奏だったので、それはちょっとさみしい。
舞台となるは丸の内の大企業、昭和鉱業庶務課。かなりたくさん人がいるのに、電話が全体でひとつしかない。みんな机の上に何もない。これを見ると海山商事があんなかんじなのがとてもうなづける。
たぶん当時はまだ、ホワイトカラーってあまり仕事なかったんだよね。朝鮮特需のころだけどまだモーレツサラリーマンなんて言葉はなかったし、みんな残業なんかしないで、夕ぐれどきにはもうペラッペラのカバンもって駅から家に向かう路地を歩いてる。うちに帰って和服に着替えて家族でご飯たべてる。ちょーううらやましい。
主人公の新入社員、小林桂樹も、顧客のお迎えとか、社長漫遊の随伴とか、社長と愛人(花柳小菊いい感じ)と社長夫人と令嬢の間で右往左往するとか、なんだそりゃってな仕事しかしてないので、のちのサラリーマンもの、組織もの映画の嚆矢というより、どたばた人情ものの趣。なんといっても一番盛りあがっているシーンが、秘書部長の娘かつ同僚の高千穂ひづるとの、かなりの尺を使ってのスクエアダンスだからねー。
とはいえいろいろあって、小林桂樹は苦い失敗を経て世知をまとい、組織の論理に取り込まれていく。でも、お父さんが退職に追い込まれる理由を作っちゃったとは言え、悪気ではないし、どうせあと一年で定年だし、高千穂ひづるはそんなに怒らなくていいのになーと思ってしまった。
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