きゅうげん

影武者のきゅうげんのレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
3.8
本作を語るうえで俎上へのせられるのは、勝新の降板劇。「やっぱりバイタリティーあふれる彼の信玄をみたかった」というのは観た人が口をそろえて言うところ。
しかし仲代達矢の確かな演技力で、武将と盗人とを演じ分けているクオリティーには脱帽させられます。後の『乱』を鑑みても、後期黒澤作品において彼の存在は重要ですから、この配役でも結果オーライな側面があるといえるのでは。
仲代達矢と山崎努もちゃんと兄弟にみえますしね。

しかし高天神城の戦いにはかなりガッカリ。
黒澤十八番の「泥臭いアクションを望遠で撮る」というのが戦闘の規模感にあっておらず、ただ大移動をみせてるだけでダイナミズムに欠けます。なんだか持て余してる感じ。
長篠の戦いも同様にエンカウントは描写されずかなり残念ですが、「風林火山」がうち砕かれた武田軍と影武者との悲哀には胸にくるものがあります。

それにしても画的な豪華絢爛さがハンパないですね。
セットの荘厳さや衣装の華々しさもさることながら、靄立ち込める諏訪湖の水葬シーンとかサイケデリック悪夢世界シーンとかにはビックリ。ガチ城郭ロケなんかも圧巻ですね。
……だけどヤッパリ若山&勝の武田信玄みたかった~。
それに黒澤作品の仲代達矢は、溺れたり燃やされたりとなかなか不憫。

アクションにご老体が付いていかない印象のある作品。
黒澤明といえば「『平家物語』を撮りたかった」という話が有名ですが、もし撮れてたとしても本作や『乱』みたいな、後の祭り的無常観が何遍も続く無間地獄になっていたのでは。
往年の縦横無尽なアクロバット感と、このような虚無的視線とがからまった黒澤平家、ちょっと気になる……。