なお

その街のこども 劇場版のなおのレビュー・感想・評価

その街のこども 劇場版(2010年製作の映画)
5.0
頼むから配信でも見れるようになってくれ。もっとたくさんの人に見てほしい。


不幸は理不尽にやってくるけど、いつまでもいつまでも心の中に居座り続ける。避けることはできない。なんで来るの!?って思うけど、帰ってはくれないし、そのまま、不幸が来たあとも人生は続く。不幸は乗り越えられるものじゃなくて、ずっとついてきて、忘れたと思ったときこそ執拗に心にしがみついてくる。
その不幸を、ちょっとだけ誰かに背負っておいてもらう。背負ってもらったら、今度は自分が誰かの不幸をちょっとだけ背負う。そうやってかわりばんこすることで、不幸を抱えながらでも生きていけるんだな、と思った。
忘れられない悲しみを、忘れられないままでも生きていけるんだ、と思った。

一方が折れそうになったら、もう一方が鼓舞する。そのもう一方も折れそうになるけど、今度は反対に鼓舞される。その構図がよかった。

被災者でも、持つ悲しみの種類はひとつじゃないんだなと思った。被災したことがない自分はその悲しみを想像することしかできなくて、想像には限界があるから、震災を忘れないって言われてもそんなの無理じゃん、って思ってた。でも、震災を忘れられなくて、その悲しみにのたうちまわりながら生きてる人が、亡くなった人の何倍もいるんだと思った。忘れるっていう事は、今ある悲しみを無視することになるんだ、と思った。そこに悲しみがある、ということをひたすらに考えることが、悲しみに対するせめてもの報いなんじゃないかと思う。

100年に1回しかこない地震がこない想定で作られる、コストを抑えた「絶対安全」な建物。私たちが見てる建物は100年後には残らないんだと思ったら、渋谷や新宿の景色が虚しく見えてきてしまった。

虚しさのなかで、それでも、悲しみを減らすためにできる事はなんだろう、と思った時に、自分がインフラという今の仕事を選んだ理由がこれだ、と思った。自分の仕事の信念を、ここでまた見つけた。
なお

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