映画の見方を変えてくれた映画。自分にとってこの映画は重要だがいつも言語化するのに困る。空気感というと陳腐だが、まさしく空気の映画。その空気に漂うユーモアと人物の不毛さがまた面白い。ユーモアでありつつ詩的であり、スタイリッシュでもある。センスがあるとしか例えられないのが不服だが、そうした空気感をキャッチできるセンスがすごい。
全編ワンシーンワンカットが続くスタイリッシュな構成。カットが入ると黒幕を挟んでまたカットという形。つまり編集の妙はここには微細にしか存在しない(あるとすればそれは黒幕による休符があるだけである)。そして、ワンシーンワンカットであることで時間の持続をダイレクトに感じさせる。そこに漂う退屈な、倦怠した時間を感じさせてくれる。それは決して不快ではなく、まさに空気のように当たり前に存在して邪魔をしない。ふとボーッと公園のベンチに座って、しばらく前にある光景を眺めてしまうような、あの感覚がこの映画には発揮されているのだ。
そして、この映画の登場人物たちの関係がまた良い。ウィリーとエヴァとエディの三人の近すぎずまた遠すぎないこの関係性にいちいちクスッとさせられる。三角関係のようにウィリーとエディはエヴァを想うが、ドラマが生まれるわけではない。常に同じ距離感を保つ。このドライさがある意味一番人間っぽくて面白い。また会話が無意味。それはドラマを生むためではなく間を生むためのセリフなのだ。「人生は暇潰し」と言わんばかりに冷めた登場人物と寒々しいクリーブランドの景色がマッチする。物語がある映画が熱を持っているならば、その物語を失い熱を失った映画が今作と言えるだろう。言わば対極にある映画なのだ。
スクリーミン・ジェイ・ホーキンスのあのカセットで流れる歪んだ音楽だけが、愛を高らかに歌うものであったが、それは明らかに歪んで寒空の中に流れていたし、バラードではなくブードゥーであるのだ。まるで、愛とは異物であるかのように。
そしてラストはもう傑作である。三人はどこに行っても"三人"でしかなく、そこに新たな何かはない。三人が三人でない状態を求めた時、それは彼らをバラバラに散らすという結果を生むのだった。そこには笑いと悲壮感が同時にくるなんとも言えないラストなのだ。まさしくタイトル通りに「パラダイスを凌駕するほどの変人」なのだ。彼らは求めるパラダイスでもついにストレンジャーなままであったのだ。
あとは、とにかくエヴァが美しい映画だと思う。あの常に無表情で愛想がないのがむしろリアルであった。モノクロに映る人物たちの存在はとてもカッコいいのでそこにも注目。無表情が好きなのでアキ・カウリスマキ映画も必然的に好きである。