くりふ

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 前編 始まりの物語のくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【絶望に裂けるたまご】

TV版面白くてイッキ見し、総集編も気になりDVDにて。

画の質はTV版より上がりましたが、連続ものだからこそ生きる語り口が消えノンサスペンド、平坦になったのは残念。

構造がしっかりしているので、一本の映画になっても違和感ないのはさすがですが。総集編としてはレベル高いのではと思います。

散々語られているので今さらですが、個人的に感じた面白ポイントを。

まずは魔法少女ジャンルのお約束…と思われていたものに対してちゃぶ台返しをしちゃったところ。魔法は幸福になる手段ではなく実は!…という。

萌え系デザインのキャラが地獄巡りに嵌ってゆくギャップが狙い通り効いていますね。ジャンル内でのひねくれ方がエヴァに似ており時代の風も感じます。

まあ基本的にはおかしな設定で、そもそも「彼ら」が人間を魔女少女にする代わりにどんな願いも叶える力を持っているなら、それで自分らの「願い」をとっとと叶えりゃいいじゃん、て思うのですよ(笑)。

願うからあの活動をしているわけで、願う「感情」はあるだろって。逆にそれがないなら宇宙の行く末なんてほっとくだろって。

…とはいえ本作、嘘のつき方が巧くて滑らかなんですね。だからツッコミ心は抑えたまま、キモチよく騙される気になります。

また女子中学生のある心情に絞り、そのメンタリティーの檻から外に出ないことが効いています。この年頃の少女だからこそ出られなくなっている、と巧く見せていますね。言わばセカイのすべてが自分と友達でできている、という段階での心のあり方。

この基本心理で全篇、『叛逆の物語』まで貫いています。おかげで無理な展開でも呑みこめる。で、この女子心に共感できたらもう、全キャラの虜です(笑)。

構成としては、そんな各キャラ個々の物語を一見、オムニバス風に語りながら一本につなぐ所が巧い。各キャラの心情により、寄り添える構造になっています。

そして彼女らにストーリーライン上で、順にバトンを渡すような役割分担をさせ、結果的に大きなひとつの物語を紡いでいる。

その中ではまどかが、主人公なのに殆ど魔法少女として活躍しない…ということが逆説的に面白いですね。彼女は重大な役割をずっと待つ役割だったというね(笑)。

この前編では魔法少女の表面を紹介するマミ編と、裏面を紹介するさやか編を中心に展開し、さらに謎めいたほむら編を低に響かせつつ巨大な、とある絶望へと雪崩れ込みます。

このラスト、酷いよね(笑)。TV版をみていなくても、ここはサスペンドにならざるを得ないでしょう。酷いけれど、魔法少女の秘密と絡めた締め方が巧いし、むしろ今後への期待含みの盛り上がりで後編よりいいかも。

あ、あと梶浦由記さんの音楽が拍手モノ!繊細かつカラフルで沁みる染みる。なかでもシンボル曲「Sis puella magica!(ラテン語で魔法少女になってよ!の意)」には、このセカイにするりと入り込ませる魔法が、確実に込められていると思いました。

魔女の結界表現は、TV画面では斬新でした。が、例えばヤン・シュヴァンクマイエルのアニメのよう…と褒める評も見ましたが、特異なデザインという以上の、塊としての存在感はあまりないと思います。これは『叛逆の物語』を映画館でみて実感しました。

あえてペラペラを狙ったのかもですが、魔女にはもっと魂込めるべきだったのでは…という気がします。

全体、なんにせよ、騒がれるだけの内実が確実にある作品とは思いますが。

<2014.6.20記>
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