くりふ

アルゴのくりふのレビュー・感想・評価

アルゴ(2012年製作の映画)
3.0
【謀略エンタメのジレンマ】

レンタル始まってますが劇場行きました。画はそれなりに面白かったんですが、お話は添加物過剰で胸焼けしました。

トニー・メンデス本人による事実上の原作を読み、映画としてどう膨らませるか楽しみだったのですが、膨らませた所が改悪ばかり。偽映画を偽映画でくるんだマトリョーシカみたいで、腑に落ちぬ気分で終わりました。

とりあえず浮かんだのは、アルゴ作戦自体は、結果論ではあっても、良く練られていたんだな…という当時のCIA担当者に対する感心。この脱出作戦、ハリウッド映画制作という目くらましを使って、「関所」をいかに無事通るか、という一点集中に絞っているわけです。

両国間の緊張にも直結するから、要は何も起きないことがベスト。で、実際それに見事、成功している。だから原作を読みながら、この作戦、物語にして面白いの?と実は、首傾げてました(笑)。

原作でトニーが、なるほどねー、ということを書いていました。

「脱出には二通りある。敵に追跡されての脱出と、それのない脱出だ」

ざっくり例えれば、実際が後者で、前者に仕立てたのが映画版ですね。で、どう映画として膨らますのかと思ったら…水増し、なんですねぇ。

一番派手なのは「滑走路で待ーてー」ですか。大嘘じゃんアレ!(爆笑)革命防衛隊がマヌケに見える。イランのばか。…あ、それ狙ってんの!?

波風立てちゃいけないのに、「観客に向けて」それをやってるんですね。私はシラケました。確かにみていてハラハラしては来る。でもそれは、6人が脱出できるかではなく、無理に立てる波風そのものに対して。6人以外の周囲に、どれだけ影響及ぼすんじゃ!と心配になって来て。

映画の面白さではなく、作り手の軽率さが呼ぶ緊張感で楽しくはない。スパイは目立っちゃダメ、という当り前のことを思い返してしまった。謀略実話をエンタメ化することは、基本的に矛盾がありますね(笑)。本作は物語の内外に、ハリウッドの実態がよく出ていると思います。

トニーの家庭問題もあまり生きてませんね。あれ必要だったのかな?最近の聖林製映画で時に、気になりますが、主人公が大変な目に遭い、そちらを解決すると、何故か家族の仲違いも解消、というのがあって。問題の原因を有耶無耶にしてしまう居心地悪さ、を私は感じます。

支持率悪い政権が外に悪を仕立て、勝つことで回復するのと似てるな。

実際は地味な作戦を、荒唐無稽ギリに加工する苦労はあったろうし、007やM:iなどの、嘘の面白さと違う所を狙ったこともわかります。演出上の、ベンちゃんの冷静な手綱さばきには好感が持てました。

が、総体的には、私にとっては不発なかんじ、でした。脱出者6人をもっと掘り下げた方が、人間緊迫ドラマとして一段、面白さが深まったんじゃないかな…と後で思ったりもしましたね。

<2013.4.3記>
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